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危ない睡眠時ブラキシズム 歯の摩耗や顎関節障害
悪影響を最小限に 「医療新世紀」

 睡眠の最中、無意識に歯をこすり合わせて「ガリガリ」「ボリボリ」と耳障りな音を発する「歯ぎしり」。音は立てないものの、強い力で歯をかみしめてしまう「食いしばり」と合わせ、「睡眠時ブラキシズム」と呼ばれる。一緒に寝ている人の安眠を妨げるだけでなく、歯の摩耗や折損、顎の関節の障害など重大なトラブルを引き起こす。

  なぜブラキシズムが起きるのか詳しい原因は分かっておらず、それ自体を止めることはできないが、悪影響を最小限にとどめる方法はある。人から歯ぎしりを指摘されたり、歯や顎に異変を感じたりしたら、早めに歯科医に相談したい。

  ▽妻の指摘

  「歯が欠けて食事がしづらい」。昭和大歯科病院(東京都大田区)を訪れた男性(68)はこう訴えた。馬場一美(ばば・かずよし)教授(歯科補綴(ほてつ)学)の問診に、男性は「朝起きた時、顎に疲労感がある。妻に歯ぎしりを指摘されている」と告げた。口の中を調べると、奥歯が2本欠けており、残った奥歯も表面のエナメル質がすっかりすり減っていた。馬場教授は、歯の欠損によるそしゃく障害と睡眠時ブラキシズムと診断した。

  馬場教授は「人口の5〜15%が睡眠時ブラキシズムといわれる。歯ぎしりと食いしばり、どちらか一方の人もいれば、両方混在する人もいる」と説明する。

  症状のうち最も多いのは歯の摩耗で、進行すると歯が割れたり折れたりする。歯が部分的に鋭利になり、頬の内側や舌、唇などの軟らかい組織を傷つけることもある。歯の動揺によって歯周病も悪化する。

  ▽眠りの周期

  顎への影響も大きい。睡眠中の持続的な筋収縮で、そしゃく筋の痛みや疲労感が引き起こされる。この症状は起床時に最も強く、時間がたつと消えるのが特徴だ。だが、関節にかかる力が過度になれば、それだけでは済まない。口が開けにくく、関節内の雑音などの異常が起きる「顎(がく)関節症」の発症につながる。

  「通常、奥歯にかかる力は最大で自分の体重ぐらい。ところが、睡眠時ブラキシズムでは、さらに大きな力がかかることがある。覚醒時には『これ以上かむと歯が壊れてしまう』というフィードバックが働くが、睡眠中はこうした回路が機能しない」(馬場教授)

  睡眠には、眠りが深いノンレム睡眠と、浅いレム睡眠があり、ノンレム睡眠はさらに、比較的浅い1、2段階と深い3、4段階に分けられる。浅いノンレムから深いノンレム、さらにレムへというサイクルが一晩に4〜5回繰り返される。

  ▽力を配分

  睡眠時ブラキシズムの多くは、浅いノンレム睡眠で発生することが分かっている。しかし、なぜ起きるのか、根本原因は不明のまま。かみ合わせやストレスの影響を指摘する説もあるが、科学的に証明されていない。

  問診ではまず、一緒に寝る人(睡眠同伴者)からの指摘があるかどうかを確認する。指摘があれば、歯ぎしりの可能性が高い。指摘がない場合や同伴者がいない場合は、起床時の歯や顎の疲労感や痛み、歯の摩耗の有無などを調べ、歯ぎしりか食いしばりか、あるいはブラキシズムではないのかを見極める。

  治療では悪影響を可能な限り減らすことが目標となる。「重要なのは歯の保護と、歯や顎関節にかかる力の分布を制御すること」と馬場教授。

  そこで有効なのが、患者に合わせて作製する「スプリント」という樹脂製のマウスピースだ。歯の表面を摩耗から守るとともに、歯にかかる力を歯列全体に均等に配分する。顎関節内の圧力もコントロールし、ダメージを防げるという 。

2011年9月20日 提供:共同通信社