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永久歯 多寡、どう治療? 
乳歯温存、抜歯… 専門医少なく保険の適用外

 永久歯は上下14本ずつ、計28本あるのが一般的だ。とはいえ、生まれつき多かったり少なかったりする例は珍しくなく、学会の初の調査では1割の人に欠如が見つかった。先天性欠如や過剰は、歯並びやかみ合わせに大きな影響を与えることもあると専門医は言う。親はどう対応すればよいだろう。【田村佳子】

 横浜市の小学生、長尾亮太君(8)は永久歯が生まれつき1本多かった。母の靖絵さんによると、分かったのは7歳の時。歯科検診に行ったところ、上前歯が1本だけ生えかわらないのを不審に思った医師がX線写真で見つけた。乳歯の下に本来ない過剰歯と呼ばれる歯があり、永久歯が出るのを邪魔していた。上あごを切開して抜歯し、現在はほぼきれいに前歯が生えそろった。

 「本来の前歯は過剰歯をよけて出ようとするので、発見が遅ければ前歯がすきっ歯になり矯正が必要だったと聞いた。早く見つかってよかった」と靖絵さんは胸をなでおろす。

 日本小児歯科学会が07〜08年度に7歳以上の約1万5500人に行った初の全国調査によると、先天性欠如は10%、過剰は5%に見つかった。欠如が多いのは第2小臼歯(6歳臼歯の隣)、側切歯(前歯の隣)だが、どの歯にも起こりうる。過剰歯は上の前歯にできることが多い。

 過剰歯の多くは他の歯より小さく、前歯が正しく生えるのを邪魔するので、抜歯するケースが大半だ。

 一方、欠如した場合に問題になるのは、かみ合わせだ。一般的に乳歯は、どの子にもすべて生えそろっている。乳歯があった所に永久歯が欠如し、隙間(すきま)ができると、前後や上下の歯が動いたり伸びたりして歯並びが崩れる。あごにかかる力が非対称になり、あごが変形することも。上の前歯が足りない場合は、目立つだけでなく、上の歯列のアーチ(弧)が小さくなるため、受け口になることがある。

 同学会副理事長の山崎要一・鹿児島大教授は「たった1本でも、大人が歯を失うのと違い、成長途中の子どもだからこそ問題は大きい」と説明する。

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 欠如や過剰の治療に詳しい「カノミ矯正・小児歯科クリニック」(兵庫県姫路市)の嘉ノ海龍三院長は「欠如の場合、乳歯を温存するのが第一」と話す。乳歯があればかみ合わせも崩れない。乳歯は幼児期に歯根がなくなると思われているが、永久歯が現れないと根は失われないという。一生使うのは困難だが、40代でも乳歯を使い続ける患者はいる。

 ただ象牙質が薄いので、虫歯になると持たない場合が多い。永久歯が欠如することが多い第2小臼歯の位置にある乳歯は、乳歯の中では一番奥にあり、最も虫歯になりやすい。

 乳歯を大人になっても使うことも考えると、早いうちのケアが望ましい。「3、4歳で虫歯になる人が多い。1割もの人に欠如が出ることを思えば、3歳ごろから小児歯科で虫歯を予防した方がいい」と嘉ノ海院長は勧める。

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 欠如や過剰の予防法はない。ただ、X線写真で早めに見つけることは可能だ。前歯なら1、2歳から、12歳臼歯でも7歳になれば多寡が分かるという。

 だが、せっかく欠如が分かっても「様子を見ましょう」と言われることは少なくない。山崎教授は「欠如はパターンが多様で、子どもはそれに応じた対処が必要。時間もかかり難しい。大学では教えておらず、問題をよく理解していない歯科医は多い」と治療できる医師の不足を指摘する。

 別の問題は、治療にほとんど健康保険がきかないことだ。欠如が3、4本以上など多数に及ぶと問題は大きい。カノミ歯科では12本欠如の女性に、歯列矯正、ブリッジ、インプラント(人工歯根)を施し、約300万円かかったという。嘉ノ海院長は「本人には何の落ち度もない。多数の歯が欠如している場合は保険の適用などを考えるべきだ」と問題提起している。

 ◇小児歯科医、受診を

 山崎教授は「子どものうちは子どものことがよく分かる医師に定期的にかかることが望ましい」と勧める。

2011.06.19 記事提供:毎日新聞社