早朝、多くの人が1人で、夫婦一緒に、思い思いのスタイルで歩いている。ウオーキングは一種のブームともいえ、休日になると全国でたくさんのイベントが開催され、参加者も年々増えている。

ウオーキングが体によい、健康によい、ということは以前よりいわれており、誰でも知っている。しかし、なぜ歩くことが大切なのかと質問されると、返答に困ってしまう。

私は長年、医師として人間ドックを担当してきた。1回、1回だけの検査結果を見ただけでは分からないが、数年間の検査を経過観察していくと、多くの人のデータが段々悪くなっている。よく歩くだけで健診データが改善された症例に出会い、日常生活で歩かないことが多くの生活習病の原因ではないかと気付いた。

メタボリック症候群の多くは、歩くことが極端に少なくなったことで「歩行不足症候群」と確信する。人間の生体が健全に働くには、体温、睡眠、消化・吸収などの消化器系、老廃物の排せつなどにかかわる腎・泌尿器系、酸素や栄養を運ぶ循環器系、思考や行動の指令をする脳・神経系、ホルモンを分泌・調節する内分泌系、感染防御に関する免疫系など多くの器官が協調しなければならない。

「恒常性(ホメオスターシス)という機能により常に一定になるよう保たれている。歩くことが恒常性をうまく機能する源だ。歩かない生活を続けると肥満になり、血糖の調節ができず、血圧も高くなる。がんが発生することもある。年をとって満足に歩けないと寝たきりにもなるだろう。脳の老化も早くなる。

健康維持に「1日1万歩歩きましょう」といわれるが、極めて難しい。最初はいつもより1千歩多く歩くだけで十分な健康効果が期待できる。

ウオーキングでは少しだけ意識して活動的に歩くとよい。1カ月もたつと体が軽くなり、歩くことの心地よさ、楽しさが実感できるようになる。


2007.7.1 日本経済新聞