意外に知られていないのは、香港の平均寿命が日本並みに長いということだ。2004年時の平均寿命を見ると、香港の男性は79.0歳、女性は84.7歳。これに対し日本男性は78.6歳、女性は85.6歳となっている。

香港は世界に知られるグルメの地。貧富の差はあっても、誰もがおいしい料理に舌鼓を打っている。おいしさには肉や脂肪がつきもの。国連食料農業機関(FAO)の食料受給表によれば、香港は日本よりも肉や脂肪の摂取量が多いが、3大生活習慣病であるガン、脳卒中、心臓病の死亡率は日本とあまり変わらない。

その理由は、香港の人は食に非常に関心を持ち、日常、医食同源の食事を実行しているからだ。まず栄養のバランスだが、平均的に肉、魚介、大豆、そして必ず野菜、特に緑黄色野菜もとる。スープも欠かさず、1日に1回薬膳スープを飲む。これは肉や魚と一緒に補養薬であるクコ、大棗(たいそう)などを入れて作る。

また、寒熱のバランスをしっかりとっている。夏には体を涼しくする寒涼性の食品である羊肉などを積極的にとる。ツバメの巣、蛇などのゲテものもよくとる。ともに体に元気をつける食品という。

衣食住という言葉があるが、香港人は食を最も大切にし、着ること、住むことは二の次である。彼らに言わせると、働くことは食べること、それもおいしくて体によいものをだ。食材を選ぶ場合も大変神経質で、新鮮で添加物や農薬を使っていないものを探す。こんな考え方が平均寿命を伸ばしていると思われる。
(新宿医院院長  新居 裕久)


2007.6.23 日本経済新聞