まず食生活改善

今月中旬、福岡市で国際高血圧学会が開催された。各国から研究者や医療関係者が集まり、最新の治療法や研究成果が紹介された。

高血圧が抑制できるかどうかは、今や先進国だけの問題ではない。患者数は世界で約10億人とされているが、そのうち、約6億4千万人が発展途上国とされる。学会では、日常の生活で上手に血圧をコントロールする必要性が説かれ、「福岡宣言」が採択された。

国内ではおよそ700万人が高血圧の治療を受けているとされる。病院へは行っていないが、日ごろの血圧が高めの人も入れると、その数はさらに何倍にも膨れあがる。

血圧治療の進歩は目覚しい。古くからある利尿薬のほか、血管の細胞内にカルシウムが入らないようにするカルシウム拮抗(きっこう)薬、昇圧ホルモンを減らすACE阻害薬、体内の昇圧システムを抑えるアンジオテンシンU拮抗薬など降圧剤の選択肢は広がった。自分にあった薬で血圧は下げやすくなった。

降圧治療は脳卒中や心臓病予防には必要だ。しかし、頼りきりでは根本的な解決になっていない。食生活に気をつけないと将来の寝たきりや認知症を招くことになる。
私が会長の兵庫県健康財団では「健康ひょうご21」県民運動で5年前から「減塩し、ご飯と大豆を食べよう」と呼びかけ、県民約1千人に協力してもらい毎年24時間尿を調べ運動の達成度と効果をモニターしている。

福岡市の学会でも発表したが、この間、食塩の摂取量を厚生労働省の目標の1日10グラム以下におさえた人は36%から53%に増え、上の血圧が160以下の境界域から軽症高血圧の人が23%から17%に減った。正常血圧の人は68%から76%になった。1千人全体で見ても1日2グラムの減塩で上の血圧が平均4下がった。

この減塩と血圧低下で少なくとも10%脳卒中死亡が減ると予測される。兵庫県の医療費推計では脳卒中治療に年間1千億円使われており、およそ100億円の節減効果だ。
1日2グラムの減塩で健康寿命も平均1年は延びるだろう。

(武庫川女子大国際健康開発研究所長  家森 幸男)

2006.10.29 日本経済新聞