「優先づけ」で仕事に余裕を
いまから15年前、入社2年目のことです。トヨタ車からベンツに初めて乗り換えられたBさんというお客様がいらっしゃいました。納車の翌日、ゴルフに行くためにハンドルを握ってみると異常に重い。「おかしい」と思ったBさんはすぐに電話してきました。
その日は別のお客様に発生したトラブルの対応に追われており、私は「乗り換えられたばかりでそう感じられるのでは」といいかげんなことを言った上、訪問すると約束した時間に遅刻してしまいました。
調べてみると、ハンドルが重い原因はパワーステアリングのオイル漏れ。間違った診断を下した上に遅刻までした私に対し、Bさんが激怒したのは言うまでもありません。その場で土下座して謝りました。
この失敗は、私に日ごろの時間管理の大切さを教えてくれました。定期点検の車両引き取りや納車、得意先まわりなど、営業マンが1日にやることは決まっています。「ルーティンワーク」をいかに効率よくこなし、スケジュールに余裕を持たせられるかが、突発的な"危機"への対応力の差になって現れるのです。
とはいえ、効率的な仕事のこなし方は一朝一夕に身に付くものではありません。1カ月に20台以上の新車を売るときの忙しさは尋常ではありませんが、そういう修羅場をいくつもくぐり抜ける中で、少しずつ体で覚えていきました。
重要なのは「優先順位をつける」ことです。営業マンのカラダは1つ、1日は24時間です。すべてのお客様の要望に100%こたえるのは不可能。「自分でできる」と仕事を抱え込むのが実は一番危ない。無理だと判断したら、なるべく早く応援を求めることです。普段どんなにがんばっていても、肝心のときに遅刻しては信頼は得られません。
私は数年前から、腕時計の長針を常に15分進め、手帳は空白部分を増やすようにしています。「遅刻で土下座」はもうこりごりです。
河野 敬さん ヤナセ府中支店セールスマネージャー
2004.10.9 日本経済新聞