高血圧を抑え、疲労回復も

伝統的な調味料、酢は梅雨時にはその殺菌効果から食中毒対策などにも使われてきた。さらに様々な健康への効果が言い伝えられているが、このほど高血圧の人が酢を取ることで血圧が下がるという科学的な検証結果が出た。改めて酢に注目してみてはいかがだろう。

血圧低下作用を検証したのは、ミツカングループ本社中央研究所と家森幸男・世界保健機構(WHO)循環器疾患予防国際共同研究センター長らの研究グループ。ラットを使い、血圧を下げる効果とメカニズムを探った。さらに、高血圧者の協力を得て、臨床実験を実施した。

臨床の対象になったのは最高血圧が平均152、最低血圧が平均90の軽症から中等症の高血圧に分類される男女57人。乳酸だけ、リンゴ酢15ミリリットルと乳酸、リンゴ酢30ミリリットルの3つのグループに分け、それぞれの飲料を毎日飲んでもらい、血圧を測定した。

すると、酢のない飲料を飲んだ人に血圧の変動はほとんどなかったが、酢15ミリのグループでは飲み始めてから6週間以降に、酢30ミリのグループでは4週間以降に血圧が低下した。最高血圧をみると、酢15ミリのグループでは11程度、酢30ミリのグループでは15程度下がったという。酢の飲料を飲むのをやめると、血圧は元の高いレベルに戻った。しかし、飲み始める前よりも高くなることはなかった。

「血圧を下げる働きをしているのは酢酸。だからリンゴ酢だけでなく、どこにでもある食酢で十分だし、加熱しても成分は変わらない。毎日取ることが重要であること、健康な人の血圧を下げるわけではないことも分かった」と解説するのはミツカングループ本社中央研究所の大島芳文課長。

大島さんによると、高血圧の人は体内のホルモン性調節機構の1つ、レニン・アンデオテンシン系が働くことで血圧が上がっているのだが、酢酸がこの働きを穏やかに抑制することで、血圧低下に結びつくのだという。

酢15ミリリットルというと、ちらしずし1人前に使う程度の量。飲む場合は酸が強いので10倍程度に薄めた方がいい。ただ、毎日少しずつ取るためには、飽きのこない調理の工夫が必要だろう。そこで、放送大学などで栄養学、調理学を教える佐藤秀美さんに、血圧が高めの人が効果的に酢を取れるメニューを聞いてみた。

お薦めは中華風ドレッシング。表のレシピで7人分の目安になる。麩(ふ)に吸わせることで、しっとりと鶏肉に絡み、酢を十分取ることができる。ゴマも効果的だ。「いりゴマ、ゴマ油、ラー油に含まれる不飽和脂肪酸とセサミノールは、血中コレステロールを減らしたり血栓を解消したりすることで、高血圧の予防に役立つ」と佐藤さん。

このドレッシングは、冷やし中華のタレにもなるし、豆腐や生野菜、牛肉や魚にかけても合う万能のタレだ。酢を使う前にひと煮立ちさせれば、つんとした独特の香りが飛んでマイルドになる。たくさん作って保存も利く。作り置くときは、麩を入れずに作り、使う前に加えればいい。

スペアリブの甘酢煮も血圧を考えたメニューだ。スペアリブ8本をグリルで焼き、脂を落とす。ニンニクを脂でいため、酢500ミリリットル、上白糖大さじ8、水100ミリリットル、固形スープ1個を加えて、肉を煮汁がほとんどなくなるまで弱火で煮詰める。

「スペアリブは血をサラサラにするビタミンEが多い。また、高血圧の誘因となるナトリウムを排せつする役目をもつカリウムやマグネシウムの補給にもいい。もちろん豚ロースや手羽先にかえても楽しめる」と佐藤さんは言う。

血圧だけでなく、酢は糖分と一緒に取ることで疲労回復にも役立つし、カルシウムの吸収を促進する効果も分かっている。毎日の食卓に少量だけでいい。酢を上手に取り入れてみよう。

鶏肉グリル中華風ドレッシング
材料
鶏もも肉1/2枚、穀物酢大さじ7、しょうゆ大さじ3と小さじ1、上白糖大さじ3、ゴマ油小さじ2、ラー油小さじ2、いりゴマ大さじ2、ショウガ1片、長ネギ1本、麩小10個、うまみ調味料少々
作り方
1.ショウガ、麩はすりおろし、ネギは小口の薄切り、いりゴマはすり鉢で軽くする。
2.調味料と1の下ごしらえしたものすべてを混ぜ合わせる。麩が水分を吸うように15分ほど置くと良い。
3.鶏肉をガスグリルなどで油を落とすようにじっくり焼く。
4.鶏肉に2のタレをかけて出来上がり。

 

(2002.6.22日本経済新聞)