暑さやスポーツで汗をかくことが多くなる季節。汗は体温の上昇を防ぐ重要な役割を持ち、汗をかいたら不足する体内の水分をすかさず補給しておくことが大切だ。とくに体の感覚が低下している高齢者は「のどが渇いた」というシグナルが表れる前に、コップ一杯の水をとることを心掛けたい。

 発汗はおもに体温を調節する機能をになっている。体温が急激に上昇すれば体内の代謝の変動をもたらすほか、熱に比較的弱い脳や神経系への打撃もある。体内の水分が不足して汗の出る量 が少なくなると、熱が体内にこもり、熱障害を引き起こしやすくなる。

 成人男性の水分量は体重の約60%、女性は少し低くて約55%。小児では体重の70%ほどだが、これは年齢とともに減り、60歳を過ぎると男性で50%程度になるという。

 通常、体重の2%前後に相当する水分が減ると口の渇きを感じるというから、このシグナルが表れたら水分の補給をすれば体温の上昇を防ぐことができる。

 ただ、60歳では体の水分量が減っているうえ、水分不足にやや鈍感になっているので、渇きを感じる前に水を飲むことが大切だ。戸外に出た時など軽く汗をかいたなと思ったら、ちゅうちょせずに水を飲むことを心掛けたい。

 では、水分補給の際、飲むのは普通の水がよいのかスポーツドリンクなどがよいのか―。

 体のバランスを維持する要素の一つに血液の浸透圧があり、スポーツドリンクなどはこのバランスを保つのに良いと言われる。浸透圧は血液中の水分量 やナトリウム、カリウムなど塩分の割合で左右される。

 しかし、東京慈恵会医科大学の鈴木政登講師(スポーツ医学)によれば、浸透圧は少々の水分不足では大きく変動することはない。「汗で血液中の塩分が失われるのは炎天下でよほど激しい作業や運動をした時に限られるので、普通 の発汗であれば真水をとるだけで十分だ」という。

 もちろん、炎天下でのテニスやマラソンでは、発汗の際に塩分も出るから、塩分入りのスポーツドリンクは効果 がある。糖質の補給も大切なので、マラソン選手などが途中で塩分や糖質の入ったドリンクをとるのは合理的となる。

 また、夜寝る前に水を飲むのが良いということが最近よく言われる。睡眠中に発汗で体水分が失われ、血液の粘調度が高まり血栓などの危険が高まるからだ。

 良いからと言って、大量に飲むのも考えものだ。一度に多くの水をとると一時的に血液の浸透圧が低下し、腎(じん)臓が過剰の尿を出し二次脱水をもたらす恐れもある。「コップ一杯の水」が適量 だろう。

「積極的に水を飲んでがんを防ごう」と呼び掛けているのは、浜松医科大の高田明和教授。水を少し多めに飲んで、がんを引き起こす有害物質を排出しようというのだ。

 米ハーバード大の研究グループは、4万7千9百人余りの男性を対象にした約10年の調査をもとに、水分摂取量 と膀胱(ぼうこう)がんとの関係を昨年医学誌上で発表した。それによると、コップ一杯の水を1日に6回以上飲む人は、1回以下の人に比べ膀胱がんの危険率が半分程度だった。

 紅茶を1日に2回以上飲む人は、1月に1回以下と極端に少ない人に比べ三割程度危険率が低いという。

 高田さんによれば、有害物質を排出するのに必要な水の摂取量 は毎日2.4リットルほどと通常の2倍強。「思い出した時にもう一杯」の水が効果 的だという。    

(編集委員 中村 雅美)

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体重の約60%の水のうち、血液中にあるのは5%前後(体重比)。15%は体の組織を構成する細胞の間の間質と呼ばれるところにあり、残り40%は細胞内にある。これらの間で融通 されながら体の調節が行われている。急激な発汗などで水分が失われない限り、体の水分不足の心配はない。

 人では普通、1日におよそ2.5リットルの水分の出入りがある。出るのは尿で1.4リットル、汗や呼気など皮膚や気管などからの排出が1リットル、便などで0.1リットル。入る方は食べ物と飲水でそれぞれ1.1リットル、体内の代謝で生成する分が0.3リットル。

 よく「汗をかくと疲れる」と言う。もちろん、運動や労働によることもあるが、汗を1グラム出すと5.6キロカロリーのエネルギーを失うというから、とくに運動しなくても汗をかくだけで「疲れる」ことになる。

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(2000.6.3日本経済新聞)