多機能剤に人気 TV番組の影響も

 高齢化社会の到来や、経済発展の恩恵として飽食の時代を迎え、人々は生活習慣病や成人病に直面 するケースが多くなり、健康志向は高まってきている。また多忙を極める現代人には食生活の面 でバランスの悪い食事を余儀なくされる環境にあり、栄養のバランスをとるという点といつでも簡単に摂取できるということから、健康食品分野のマーケットが 拡大している。

「健康食品」に関する定義は様々である。商品タイプとしては素材の特性から「健康増進型」「栄養補助型」などがあり、また形状でも一般 の食品と同様のものや顆粒(かりゅう)状、粉末状、カプセル状、錠剤タイプなど医薬品に近いものもある。ここでは「保健、健康維持の目的で用いられ、通 常の食品とは異なる形態の粒状、カプセル状などの食品」について述べる。

矢野経済研究所の調査によると、先述の顆粒状、錠剤タイプ等の健康食品の1998年度の市場規模は4,700億円(メーカー出荷金額ベース)で、99年度も長引く深刻な不況の影響など環境は依然厳しい面 もあるが、5,000億円市場に達するものと予測される。

品目別では従来あるビタミン系が根強い。また最近ではTV番組の影響も大きく、健康食品の特集や体に良いとされる食品素材の番組が組まれると、店舗販売系のチャネルを中心として関連商品が売り上げを伸ばしている。ビタミン、ミネラル系ではマルチビタミンが伸びており、これはビギナーが利用しやすいことと、商品に複合的な機能が求められていることの表われといえよう。

外資系企業の多くも、日本への新規参入にあたってはマルチビタミンをラインアップに加えているところが多い。最近テレビ番組で取り上げられた素材としてはウメやザクロ、大豆などがあり、関連のヒット商品が生まれている。

その他アガリクス・ブラゼイやブルーベリー、クランベリー、ウコン、グルコサミン、また緑茶に含まれているカテキンも市場が拡大してきており、先ごろ日本健康・栄養食品協会では「緑茶エキス加工食品」として許可対象品目の一つに加えた。また欧米で医薬品として使用されていたハーブの一種もストレス対応の健康食品として日本に上陸し、今後市場に根づくかどうか動向が注目される。

外資の参入相次ぐ 開発も消費者志向

健康食品市場を販売チャネル別に見ると、店舗販売よりも無店舗販売が主力ルートとなっている。  98年度の構成比では訪問販売ルートのシェアが拡大し、全体の50%超となっている。これは出荷金額のベースであるため、末端ベースでの比較では卸を経出した店舗販売チャネルの比率がこれよりは大きくなるが、同ルートは近年外資系の新規参入企業が多く、これが訪問販売での健康食品市場を押し上げる結果 となっている。

低価格化の波は健康食品業界にも押し寄せ、これまで比較的高額商品が主流だった紹介・訪問販売チャネルの比重は相対的に下がっていくものと見られていたが、同チャネルへの新規参入企業の増加も影響し、依然大きな位 置を占めている。特に最近ではネットワークビジネス系の米国系外資企業の参入ラッシュとなっている。

これらの新規参入企業は相次ぐ新商品の投入や高いインセンティブ等によりディストリビューターが増加し、既存の大手企業に急速に迫る勢いである。参入企業の特徴としては取扱品目が健康食品だけでなく、化粧品類を含めた展開をしている点が挙げられる。

90年代中ごろまでは健康食品は高額商品であり、販売チャネルとしては訪問販売が主力であった。しかし低価格商品の登場により訪問販売以外のチャネルも伸長してきており、市場全体の拡大に大きな影響を与えている。国内の大手企業は、値ごろ感の強い商品を店舗販売チャネルにより市場投入し、中でもドラッグストアは健康食品の商品特性から見て有望なチャネルとなっている。

また、コンビニエンスストアなどこれまでサプリメント系(前述の形状の栄養補助タイプ商品)の健康食品が置かれることのなかったチャネルへも積極的な進出が図られたため、 マーケットのすそ野は広がった。

通信販売も有望な販売チャネルである。健康食品を通信販売で展開している企業は、ローヤルゼリーやクロレラなど古くからある素材に絞り込んで扱っている老舗系の企業と、化粧品などを中心に扱っていたのを健康食品にも拡大している企業等に大別 できる。しかし最近では大手食品メーカーや医薬品メーカーなどの参入も相次ぎ、今後も新たな流通 ルートとして機能し始めているインターネットを含めた当該チャネルでの市場拡大がうかがえる。

社団法人・日本通信販売協会の調査によると、98年度の通 信販売業界全体の売上高は2兆1800億円であり、対前年度比マイナス0.9%と、調査開始以来2年連続の売上高減少となっている。ただし、扱い商品を健康食品に限って見た場合、取扱企業数も増加しており、特にインターネットでの扱い企業数では、健康食品は97年度比12.7ポイントの増加となっている。これは調査対象全カテゴリーのなかで、化粧品・医薬品とならび最も高い増加率である。大手通 信販売企業では、ホームページの内容を充実させたり、インターネット通 販に関する専門の部署を設置して、当該ルートの強化を図っている。

また、健康食品の通信販売での展開上の特徴の一つは、他のチャネル以上に低価格商品が増加していることである。流通 が製造・卸・販売の三層ではないことや、店舗販売のような不動産費用等がないことからも価格を低く設定することは可能であるが、新規参入の企業でも低価格商品は多く、競争は激化している。

既存の企業においても低価格商品であることを前面に打ち出してプロモーション展開をしている企業は多く、割引キャンペーンを展開するだけではなく、レギュラー価格の値下げを行っている企業もある。今後は利益の確保が課題となり、受注業務の見直しなどにより運営効率を高め、また、店舗販売も併せて行い相乗効果 を図っていくことも必要と思われる。

今後も通信販売チャネルは商品開発、価格政策、他チャネルとのクロスやネット販売を含む流通 政策、セールスプロモーションなど他の販売チャネルよりも大きく変化し、また拡大していくことが予想される。特に利用者が24時間商品を閲覧、購入することができるインターネット分野は著しく伸長していくであろう。

作れば物が売れる生産者志向から販売志向、消費者志向へと変化している時代の流れの中で、健康食品分野も低価格商品やマルチビタミンの登場など、消費者サイドの意向をくんだ開発がなされている。また外部環境ではここ数年、法制度は規制緩和へ向けて大きく動いており、ビタミン、ハーブ、ミネラルなどの規制緩和が進行している。今後、食薬区分の変更などから、健康食品メーカーが取り組みやすい環境が整っていくであろう。

健康志向の流れは今後も健康食品需要をより一層喚起させ、市場は拡大していくのは間違いないが、有望市場であるがゆえ、参入企業は今後一層増加し、競争は激化してくることが予想される。
(矢野経済研究所生活産業調査本部上級研究員  大仲 均)

(2000.3.6日本経済新聞)