リスク評価 個別に

10年後の理想的な予防医学の未来図を描いてみたい。現在、人間ドックやがん検診を提供する健診センターは、予防センターになっているだろう。1人ひとりに合ったテーラードメードの病気予防を、医療との連携で実践しているに違いない。

遺伝子診断や栄養・免疫診断などが導入される。病気ごとのリスク評価が1人ひとりに行われる。健康保険や民間の保険も予防のための費用をカバーするようになる。

パンフレットには検査項目の概要が記され、コーディネーターがその意味を解説し、インフォームド・コンセントの書類にサインする。発がん物質や薬剤への感受性に関連する遺伝子の多型、血液中の栄養素レベル、免疫応答細胞の活性、ウイルス・細菌感染などが調べられるだろう。

病気の早期発見や危険因子を把握するための有効性が確かな検査、食習慣をはじめとする生活習慣についての問診なども含まれる。

検査や問診の結果に基づいて、予防医学の専門医との面談で予防方針が決まる。まず、検査結果に基づき色々な病気の個人的なリスクについて説明がある。そして、問診の結果を参考に、どのような予防法の選択肢があり、どれが最も合っているのか、それを実行すると病気になる確率はどのように変化するのかアドバイスを受ける。

サプリメントや薬剤の処方せんを渡されたり、遺伝子タイプに応じた生活習慣指導を受けたりすることもあるだろう。同時に、リスクの高い病気を中心とした早期発見のため、最適な検診スケジュールの提案がある。

今でも、遺伝子診断や栄養診断に基づきサプリメントなどを処方するテーラードメード予防医療は存在するようだ。しかし病気予防における見返りが期待できるという科学的根拠が十分と言えるものは極めて限られている。

科学的根拠に基づいた予防医療の実現には、日本人を対象とした数多くの質の高い疫学研究からのエビデンスが必須だ。科学的基盤がなければ予防医療にはなりえない。

(国立がんセンター予防研究部長  津金 昌一郎)
2006.3.26 日経新聞