そば胚芽に注目

1本びき ミネラル豊富
干しそば 原料名熟読を
抗酸化作用や血管強化

新そばがおいしい季節だ。そばにはミネラルやビタミン、食物繊維が豊富。1食当たりの栄養成分を比較すると、健康的な穀物の代表とされ白米に替えて食べる人が増えている玄米に、勝るとも劣らないほどだ。そばの健康効果を高める食べ方を探った。

細くて長いから延命長寿にいいとされ、年越しの縁起物として食されるそば。そばの健康効果の一部は既に江戸時代後期から注目されていたようだ。

「江戸わずらい」といえばかけっこのこと。江戸後期になると、江戸の町では白米を食べる人がしだいに増え、それに伴って、玄米ではとれるが白米ではとれないビタミンB1が不足してかっけになる人が出た。ところが、当時から大衆食として普及していたそばをよく食べている人はかっけをわずらわない、と注目されたという。

なぜそばにはB1が豊富なのか。そのわけは、米はB1を含む胚芽(はいが)が外についており、精米過程で取れてしまうが、そばは胚芽が実の中にあり、丸ごとひいてそば粉にするからだ。

さらに、そばの胚芽にはマグネシウムや鉄などのミネラルや食物繊維も多い。甘皮(実を包む皮)近くには、抗酸化作用で生活習慣病予防などに役立ち、また血管を強くするルチンなどのポリフェノールが多く含まれる。
通常そば粉には約10%のたんぱく質が含まれるが、「このたんぱく質は、食物繊維のように働いて便秘の解消に役立つほか、コレステロール値の低下作用がある」と広島大学院生物圏科学研究科の加藤範久教授は話す。加藤教授らは、これらの効果を動物実験で確認している。

更科は少なめ


このようなそばの効能をしっかり得るには「ひきぐるみ」「1本びき」「全層粉」などと呼ばれる、胚芽から甘皮までひいたそば粉で打ったそばがお薦めだ。このそばを「田舎そば」と呼ぶこともある。そして二八そばならそば粉が8割、十割そばはつなぎの小麦粉も使わないため、健康にいい成分がたっぷりとれる。

一方、白いそばの「更科」は、ひき始めに出る胚乳(はいにゅう)の柔らかい部分がほとんどを占めるため、一般的に胚芽の含有量は少ない。ただし、「更科には高めの血圧を下げる作用を持つ成分が多い」と、食品総合研究所元理事長で宮城大学食産業学部の鈴木健夫教授は指摘する。

そば屋で食べる場合には、店の人にそば粉の種類を確認できるが、市販のそばはどう選べばいいのか。

市販のそばは「生そば」がそば粉3割以上、「干しそば(乾めん)」は4割以上と定められているだけなので、そば粉が少なめの商品もある。購入の際にパッケージの表記に注意したい。原材料名の欄で、そば粉が小麦粉より先に記されていれば、そば粉のほうが小麦粉より多い。逆ならばそば粉は少なめになる。そば粉とだけ書いてあれば100%ということだ。

そばを食べに行ったら、そばのゆで汁、そば湯もしっかりと飲みたい。ゆで時間の短い生そばの場合、ポリフェノールやミネラルはほとんどゆで汁に溶け出さない。しかし、めんの表面についている打ち粉(そば粉)は溶けてしまう。市販のそばでも「めんの表面についている粉は、打ち粉」「そば湯が飲める」などと書いてある場合は、栄養価の高いそば湯になる。

そば湯そばが魅力

一方、ゆで時間の長い干しそばは「ルチンやミネラルの3割程度がお湯に溶け出してしまう」(日穀製粉開発本部の土田幸一係長)という。「そば湯そば」(写真)にして食べるのがおすすめだ。

おいしく食べるためのゆで方も知っておきたい。そばの名産地の1つである長野県の工業技術総合センター食品技術部門の大日方洋研究員によれば、「多めのお湯を沸かして、グラグラした沸騰状態を維持し、入れたそばが常に回流している状態にする。また、はしでかき混ぜ過ぎないこと」だという。コシのもとである角がこすれるのを防げる。

そばアレルギーの人はそばを避けなければならないが、それ以外の人にとっては縁起物であるだけでなく、効能面からも長寿に一役買いそうなそば。塩分取りすぎを避けるため、濃いタレを全部飲まないようにするなど注意しながら楽しみたい。 (日経ヘルス)

「そば湯そば」の作り方

そばのゆで汁300ミリリットルに、しょうゆとみりん各30ミリリットルを加え「そば湯そば」のかけつゆにする

そばの成分  マグネシウム  鉄    亜鉛   ビタミンB1   葉酸    食物繊維
ゆでそば(全層粉100グラム分)
          150mg   2.8mg  1.8mg   0.23mg  41マイクログラム  4.3グラム  
玄米ご飯(大盛り1杯分、200グラム分)  
           98mg   1.2mg   1.6mg   0.32mg  20マイクログラム  2.8グラム
          ※mg…ミリグラム
注)ゆでそばの数字は、「全層粉」の栄養性分量に、ゆでたときの残存率を掛けたもの。五訂増補食品成分表をもとに日系ヘルス編集部が算出

 

 

2006.11.25記事提供:日経新聞