日本人は中国の料理のことを、中国料理とか中華料理と呼んでいるが、中国人はそうは言わない。中国菜、また地域の名前をつけて北京菜、広東菜、四川菜、上海菜などと呼ぶ。菜とは野菜、すなわち植物性の食品を指しているようである。メニューも菜単とか菜譜と呼んでいる。

とはいってもメニューには、肉料理、魚介料理、卵料理、動物性の食品も載っている。

なぜ、菜の字を使うのか、それは一説によると、野菜は中国の食事の主役を務めているからだという。野菜は安くて手軽に手に入るからよく食べるのかと思ったら、そうではない。中国人に言わせると、野菜は健康維持に欠かせないからだ。

なぜなら“薬”という漢字を分析してみると、くさかんむりに楽と書くが、この字の意味するところは、病を治す草ということ。楽とはかつて中国では巫女(みこ)が手鈴を振り病魔を祓(はら)って病気を治したことから出た字だという。

香港で昼食をとった時、メニューを見て、野菜を重要視していることを知った。店のメニューには、肉料理と魚介料理の2つに分けられ、30種類くらい出ていたが、別項にこれらの料理から好みのものを選ぶようにと書かれ、他にスープと青野菜が必ずつくと記されていたことである。

日本で外食する場合、そばやラーメン、牛どん、すしなどをオーダーした時に野菜などほとんどついていない。中国はさすがに医食同源のお国柄だと感じた。
(新宿医院院長  新居 裕久)

2005.5.14 日経新聞