「有効」の裏側考える

朝食時にニュースを見るのをやめた。事故も事件も、人間不信になるようなネガティブな話が多いためだ。ニュースを見ずに食事に専念する方が、消化と精神衛生に良いような気がしている(科学的根拠はないが)。
一般のニュースとは違い、食物や健康に関する情報は、「有効、効いた」というポジティブな話が多い。「無効、効かない」というネガティブな情報は、あまり伝わらない。

「果物が脳卒中等の予防に」。昨年10月、厚生労働省の研究班での筆者らの論文発表を多くのメディアがこう伝えた。岩手県から沖縄県まで9地区約8万人を、最長7年間にわたって追跡調査した研究だ。野菜や果物の摂取量の大小で4群に分け、病気の発生率を比べた。

脳卒中と心筋梗塞を合わせた発生率は、果物を一番多く食べる集団が、一番食べない集団より19%低かった。しかし、野菜では発生率の低下はなかった。また、すべてのがんを合わせた発生率は、果物でも野菜でもはっきり下がらなかった。

もっとも、これまでの研究を総合すれば、野菜の脳卒中と心臓病に対する予防効果は確実視されている。野菜と果物が、いくつかのがんの予防に有用なことも分かっている。

その点を踏まえた上で、特にがん全体に対する野菜や果物の効用が、かつて考えられていたほど大きくない可能性を警告する結果だった。全般にネガティブ情報が中心の論文だったのだが、果物が脳卒中等の予防に有用というポジティブな部分が、もっぱら強調して伝えられた。

「有効」という話の方が、耳に入りやすいのは確かだ。また、健康食品に関する情報などの場合、売る側の思惑が絡む場合も多い。自然、ポジティブ情報がより多く発信されることになりやすい。

とはいえ、1つのポジティブ情報の背後には、伝えられないネガティブ情報がある場合も多いことを、知っておいて損はない。物事の全体像は、ポジとネガがそろってはじめて浮かび上がるものだろう。
(東北大学公共政策大学院教授  坪野 吉孝)

 

2008.3.23記事提供:日経新聞