水虫退治 秋の陣

飲み薬服用も広がる
スポーツ選手に流行の新種も

日本人のおよそ5人に1人が感染者とされる水虫。気温と湿度が下がるこれからの季節は菌の活動が低調になる。今こそ水虫退治の好機だ。しかしいくら水虫の活動が鈍るとはいえ、履物の種類によっては感染リスクが下がらないケースもある。中でも若い女性を中心に流行のブーツスタイルは要注意。季節の特性を生かした治療と予防の注意点をまとめた。

「梅雨時に感じたかゆみは消えたし、水虫はもう治りました」――。東芝病院(東京都品川区)の服部尚子皮膚科長は9月以降、複数の患者からそんな言葉を聞いたという。

水虫はカビの一種、白癬(はくせん)菌が皮膚に付着、侵入して起こる感染症。高温多湿の環境を好み、ツメや皮膚の角質を養分とするのはよく知られている。服部科長は「秋にかゆみがおさまると、治ったと勘違いする人が多い。菌は角質やツメに潜んでいる。ここで治療をやめれば来夏には再びかゆみに悩むことになる」と指摘した。

埼玉県済生会川口総合病院(埼玉県川口市)の加藤卓朗皮膚科部長も「根治を目指すのなら、菌の活動が低調になる秋以降が治療を始めるチャンス」と話す。

加藤部長によると治療法は大きく分けて2種類。指の間がただれたり、土ふまずに小さな水泡(すいほう)ができる症状には塗り薬が一般的だ。塗り薬は市販薬と医家向けでは菌を退治する成分や効き目にあまり変わりはないが、市販薬にはメントールなどの成分が含まれていることがある。

治療開始から1ヵ月程度で症状は改善するが、大切なのはそこで治療をやめず、さらに1ヵ月は薬を塗り続けること。

広範囲に塗る

もう1つのポイントは広範囲に塗ること。症状が出ている部分以外にも菌が潜む可能性が高いため、指と指の間や、足全体に薄く塗るようにする。塗布のタイミングは角質が軟化する入浴後が最も効果的だ。

ツメが白色や黄色ににごったり、ツメの先が厚くなったり、ボロボロと欠け落ちるツメ水虫や、かかとなどの角質が厚くなる症状の場合、塗り薬では菌に届かないため、飲み薬を使う。飲み薬は医師による処方が必要なので、受診が必要になる。約6ヵ月毎日飲む「連続服用法」と、1週間薬を飲んで3週間は服用を休むサイクルを3回繰り返す「パルス療法」があるが、日常服用している薬の有無など気をつけねばならないことが多いので、医師の指示に従うことが大切だ。

根気強く治療を続けても、厄介なのは「一度完治しても、抗体ができるわけではないので常に再感染のリスクがある」(加藤部長)こと。

水虫を予防するにはどうすればいいのか。野村皮膚科医院(横浜市)の野村有子院長は@毎日せっけんを使ってよく足を洗い、きちんとふいて乾燥させるA水虫患者がいる家庭ではバスマットをこまめに洗濯。スリッパは共用しないなど感染源を避けるB同じ靴を履き続けない。意識して風を通すなど通気を心掛けるC気になる症状が出たら早期に顕微鏡を使った菌検査をしてくれる皮膚科を受診する――の4点を挙げる。

足のトラブルやかゆみの原因が水虫とは限らない点にも注意しなければならない。「かぶれや湿疹(しっしん)を水虫と勘違いし、市販薬で症状を悪化させる人もいる」(東芝病院の服部皮膚科長)。逆にツメ水虫などはかゆみを感じないため、感染に気付かない例も多い。早期に皮膚科専門医を受診し、感染の有無を調べる必要がある。

ウサギから感染

15−20年前に流行し、いまだにまん延しているのが、犬や猫などのペットから感染する白癬菌。ウサギやモルモットからの感染も報告されている。済生会川口総合病院の加藤皮膚科部長は「感染ペットを日常的に抱くなど密な接触をすることで感染する。腕など上半身に炎症が出ることが多い」と話す。治療法は普通の水虫と同じ。ペットにもかゆみや脱毛などの症状が表れるので、獣医に連れて行き、薬の処方を受ける必要がある。

海外から持ち込まれたもので、柔道やレスリングなど、格闘技系のスポーツ選手の間で感染が広がっている新種が確認されている。加藤部長は「一般の人にも感染が広がる可能性がある」と指摘していた。

ブーツは冬でも菌の温床

若い女性を中心に流行のブーツは通気性がほとんどないため、冬でも靴の中は水虫感染が成立しやすい。温かく湿ったブーツの中は白癬菌にとっては居心地が良いからだ。

野村皮膚科医院の野村有子院長は「フィットネスクラブなどで白癬菌が足に付着し、そのままブーツなどを履き続けて感染するケースが目立っている」と話す。お気に入りの1足ばかりではなく、2、3足を日替わりで履くようにして、ブーツを乾燥させる時間を与えるといい。

また、人気の羊皮の毛皮を使ったムートンブーツや合成皮革を使った類似品の場合、素足のまま履く人も多い。これについても野村院長は「靴下か通気性の良いストッキングを履いた方が汗を吸収して予防につながる」と話した。

ブーツの手入れは靴専用の乾燥剤を入れ、ブーツキーパーを挿せば空気がよく通る。「げた箱にすぐしまうと、通気が悪くなる。時々陰干しするのも効果的」(シューケア用品大手、コロンブスの谷江博司さん)という。

水虫のセルフチェック


1.足水虫

□足の指の間の皮がむけている
□足の裏に水泡(水ぶくれ)ができている
□足の裏やかかとの角質が厚くてざらざらする
□上記の症状は夏になると悪くなり、冬になるとおさまる

2.ツメ水虫

□足のツメが白く濁っている
□足のツメが黄色く変色している
□足のツメが厚くなっている
足のツメがもろくボロボロ欠ける

(注)ひとつでも該当する場合は水虫になっている可能性がある。水虫感染者の約半数はかゆみなどの自覚症状がない。(仲皮フ科クリニックの仲弥院長の話から作成)

 

 

2008.10.11 記事提供 日経新聞社