体温変化促し  秋の快眠演出

24時間記録で客観評価も

ようやく秋の気配が感じられる時期がやってきた。不眠症など睡眠障害治療の専門家は、快適に眠れるこの時期こそ、乱れた睡眠習慣を改善するチャンスだと話す。生活習慣を改善しても眠れなくてつらいという人は、早めに専門医に相談したほうがよさそうだ。

「人の体には季節変動があり、秋になれば深い睡眠が得られることが分かっている」と説明するのは、スリープクリニック調布(東京都調布市)の遠藤拓郎院長。睡眠障害の専門医は、睡眠に向いたこの季節に患者が飲む睡眠薬の量を少しずつ減らし、薬なしで過ごすよう指導するくらいだという。

秋に睡眠を改善するポイントはいくつかあるが、遠藤院長がすすめるのは体温変化を利用した快眠法だ。

「終夜ポリグラフなど睡眠中の生理現象を測定した研究では、人体は眠りに入る過程で体温が約1度低下する。この体温変化の過程で深い眠りに入っていく」と遠藤院長。寝入りばなに手足が熱くなったり額に汗をかいたりするのも、体が内部にたまった熱を放出し、深い眠りにつこうとするためだ。

夕食に鍋物を


この季節、夜は涼しくなるので睡眠時の体温低下が起きやすいが、さらにひと工夫で体温変化を演出できる。例えば夕食で鍋物など温かい食事を取ることで就寝前の体温を高めにする。その分、入眠時の体温変化が急になるので、より深い睡眠を得やすくなる。同じく夕方の散歩など軽い運動をし、ぬるい湯にゆったりつかることも、入眠前の体温を高めに保つことに有効だという。

就寝前のリラックスも大切だ。夜遅くまでパソコンに向かったり、ゲームをしたりするのは控えたほうがいい。読書や照明を落とした部屋で静かな音楽を聴いたりすると眠りにつきやすくなる。

寝具をチェックし睡眠環境を整えるにも秋は最適の季節だ。寝苦しい夏に使った枕は汗を吸い、つぶれて低くなっていることもある。自分が眠りやすい高さに調節し、マットレスの硬さや、かけ布団の重さにも気をつかって、快適な眠りにつけるよう心がける。

秋ならではの注意点もある。この時期は日の出の時間の変化が大きく、どんどん朝が遅くなる。眠りが深いこともあり、起床時間も後にずれてしまう。遠藤院長は「体のリズムは、朝起きて光を浴びることによって調整される。朝寝坊は夜寝つきを悪くするばかりか、体のリズムの乱れを呼び、抑うつ気分などさまざまな不調のもとになる」と話す。この時期こそ朝、一定の時間に起きる習慣をつけるべきだという。

生活習慣を改善してもよく眠れない人は、医師や薬剤師の指導で医薬品を服用することも検討の対象となる。最近では市販の一般用医薬品の中にも、入眠を改善するものが出ている。

遠藤院長は「市販薬は気分が高まったり、昼寝で寝付けなかったりした時に短期に服用するもの」と話す。夏の間に不規則な就眠習慣がついたときの利用には向くが「連用すると効果が弱くなる」という。このためよく眠れない日が1週間以上続いたときは、睡眠障害の治療に積極的な医師に相談したほうがいい。

生活習慣病の原因


睡眠障害の専門医は日本にはまだ少ないが、病状に応じた専門指導が特徴だ。その1つに最近開発されたライフコーダーを用いた治療がある。歩数計ほどの大きさの装置を1日中、身につけて睡眠時間、睡眠の深さ、運動量の変化などを記録する。

「患者は自分が本当はどの程度眠っているのかわからない。ライフコーダーを使うことで、睡眠指導や睡眠薬の効果を客観的に評価することができ、最適な治療を可能にする」と遠藤院長。睡眠不足は仕事や学業に影響を与えるほか、最近では生活習慣病の原因のひとつとも考えられている。秋の夜は、自分の睡眠について考えるチャンスといえるだろう。
(ライター  荒川 直樹)

医師の指導で 睡眠薬を活用


専門医による不眠症の治療では、生活指導と同時に睡眠薬が用いられる。「長い間、眠れない日が続くと、眠れないことが不安になり、不眠を呼ぶ悪循環が起きがち。睡眠薬できちんと眠る習慣をつける必要がある」と、代々木睡眠クリニック(東京都渋谷区)の井上雄一院長は説明する。

睡眠薬の服用に不安を感じる人もいるが、最近使われている睡眠薬(ベンゾジアゼピン系化合物など)は、医師の処方どおりに飲む限り安全性が高い。医師は、症状の改善とともに少しずつ服用量を減らす。井上院長は「自分勝手に服用を中止したりせず、指導に合わせて服用することが大切」と説明した。

不眠症は、症状が長引けば長引くほど治療が難しくなる。眠れずにつらい日が続く人は、早めに専門医に相談を。日本睡眠学界のウェブページ(http://jssr.jp/)には、睡眠医療認定医リストが掲載されているので参考にするといいだろう。

秋の快眠ポイント

@「夕方に散歩。ゆっくり入浴」
   就寝前の体を温めるとともに、精神をリラックスさせる
A「夕食は温かいメニューで」
  鍋物などで体を芯から温めることで、終身後の体温変化を促進する
B「就寝前はリラックス」
  間接照明の部屋で、読書や音楽鑑賞など静かな時間をすごすことを心がける
C「毎日、定時に起床」
  日の出時間が遅くなるので、朝寝坊になりがち。毎日決まった時間に起きる習慣を
D「朝食は明るい部屋で」
  カーテンを開き、照明を明るくすることで体のリズムをリセット

就眠前の快眠体操
手先、足先の血行を改善し眠りやすくする

○手 両手をひざの上におき、10秒間固く握る。その後、手を開いて10秒間脱力する
○足 ひざとつま先を伸ばして、すねを10秒間緊張させる。その後10秒間脱力するひざをのばし、
  つま先を上げて、ふくらはぎを10秒間緊張させる。その後10秒間脱力する

 

2008.9.13 提供 日経新聞