サプリメントもそうだけど
、日本の用量はやはり少ないことが多いのです
口腔内細菌の感染が多い、心内膜炎の治療も同じ

日本の用量では患者は救えない
抗菌薬大量投与とPK/PDで重症例にも効果


米国流の抗菌薬処方の特徴は、重症例に対する大量投与とPK/PDの考え方に基づいた用法・用量の設定だ。専門家が経験した症例をみながら、その実力を検証する。

洛和会音羽病院の大野博司氏は、「日本の添付文書に書かれた投与量では救命が難しい場合も少なくない」と話す。

日本と米国とでは用法・用量が大きく異なる例がある。特に重症の患者に対しては、米国流の大量投与が救命に必須となるケースは多い。

例えば、感染性心内膜炎に対するペニシリンGの投与。米国の通常投与量では、1日2000万単位を持続静注または4時間ごとに分割点滴静注する。一方、日本のペニシリンGの通常用量は1回30万?60万単位を1日2?4回だ。感染性心内膜炎には「通常量より大量使用」が認められているが、そもそも用法が筋注のみで、点滴薬としての使用は承認されておらず、感染性心内膜炎の治療にペニシリンGが日本の用法・用量通りに使用されることはまずないとみられる。

洛和会音羽病院(京都市山科区)ICU・総合診療科・腎臓内科・感染症科の大野博司氏は、「当院を含め、緊急避難的に米国の用法・用量でペニシリンGを使用したことがある医療機関はかなりあるはずだ」と語る。

以前は日本の用法・用量でも問題なかったが、耐性菌の増加によって、米国流の大量投与が必要になってきている抗菌薬もある。

杉田耳鼻咽喉科の杉田麟也氏は、「小児の中耳炎や副鼻腔炎に対して、アモキシシリンを従来どおりの30mg/kg/日で処方しても、完治しない例が90年代半ばごろから増えてきた」と話す。

小児の呼吸器や中耳炎副鼻腔炎の主要起因菌は肺炎球菌とインフルエンザ菌。杉田耳鼻咽喉科(千葉市美浜区)理事長で、順天堂大で講師も務める杉田麟也氏は、「ともに耐性菌が増加しており、日本の添付文書では、20?40mg/kg/日を3?4回分服だが、最近は上限の40 mg/kg/日でも効かない症例が多い」と話す。

アモキシシリンは米国では90mg/kg/日まで投与が認められている。杉田氏は、現在、耐性菌による難治例に対して、アモキシシリンの増量を狙ってアモキシシリン・クラブラン酸カリウム配合(2:1)(オーグメンチン)と、アモキシシリンを組み合わせて、アモキシシリンを合計量で50?60mg/kg/日投与している。杉田氏は、「ペニシリン系の薬剤は、細菌に対する選択毒性が強く副作用は少ない。50?60mg/kg/日を朝夕分2で処方することが大事だ」とアドバイスする。

PK/PDを現場で応用
最大投与量の多さに次いで、米国流の用法・用量の特徴として挙げられるのは、1回当たりの投与量と1日当たりの投与回数が抗菌薬の種類に応じて設定されていることだ。

これは、米国では、薬の用法・用量が決める抗菌薬の体内動態(PKパラメーター)と、抗菌薬の抗菌活性(PDパラメーター)の関係を考慮して、用法・用量を決める手法が以前から取られていたためのようだ。最近登場した抗菌薬には日本でもPK/PDパラメーターを考慮した用量設定がされてきており、日米間の違いはなくなりつつある。

PK/PD理論に基づくと、抗菌薬は、1回当たりの投与量を増やすことでより大きな薬効が期待できるタイプの薬剤と、投与回数を増やすことでより大きな薬効が期待できるタイプの薬剤に分けられる。前者に分類されるのはキノロン系、マクロライド系など。後者に分類されるのはペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系などだ。

より高い治療効果を得るためにPK/PDを治療に応用した例として、洛和会音羽病院の大野博司氏は、肺炎球菌による大葉性肺炎をアンピシリンで治療した症例を挙げる。

症例は、発熱、湿性咳嗽、喀痰増加で受診した73歳男性。4日間続く38℃台の発熱、悪寒・戦慄、湿性咳嗽の訴えで内科外来を受診した。3日前に近医で第3世代セフェム内服薬と、解熱剤、去痰薬を処方されていたが改善は見られなかった。

「内服薬のセフェムは第1世代を除くと消化管からの吸収が極端に悪いために効果が出ていない」と大野氏は判断。喀痰グラム染色でグラム陽性双球菌、尿中肺炎球菌抗原陽性の結果を得た上で、肺炎球菌による大葉性肺炎と診断して入院させ、アンピシリン(ビクシリン)1回2g・1日4回の処方をスタートした。

この処方は、ペニシリン系のアンピシリンの薬効を十分に引き出すためだ。大野氏は、「PK/PDの観点から見るとアンピシリンは投与回数を増すことで効果が上がる薬剤なので、投与回数を4回にした」と話す。

第2病日には患者は解熱し、第3病日に白血球、CRPともに著明に改善、5病日に軽快して退院となった。

ただしPK/PD理論が万能でないことにも注意が必要だ。同じ抗菌薬でも、尿路感染症に使用する場合と、髄膜炎に使用する場合では必要な量が全く違う。また、起因菌によっても、それぞれ薬剤に対する感受性が違うので必要量は変わってくるからだ。

奈良県立医大感染症センター・ICT助教の笠原敬氏は、「PK/PDを考慮するのは重要なことだ。ただし、抗菌薬の効果は、患者がどのような状態にあるのか、感染臓器はどこか、起因菌はどんなものかなどが複雑に関係して決まることも考慮しつつ、PK/PD理論を活用してほしい」と話している。



2008.11.7 記事提供 日経メディカルオンライン