西洋医学と融合も進む
体質に合わせ正しく服用


慢性疲労やつらい肩こり、体の冷えやのぼせといった中高年を悩ます様々な症状は、通院や薬を飲んでもなかなか良くならないことも多い。こんな時に役立つのが漢方治療。体にあった漢方薬がうまく見つかると短期間で症状が大きく改善することもある。

東京・目黒に住む50代の女性Aさんは、ここ1、2年、不眠症や肩こり、足は冷えているのに顔はのぼせるといった症状に悩まされ続けてきた。病名は更年期障害。病院でもらった薬は睡眠薬だけで、夜、眠りにつけるようになったが、冷えなどの症状は一向に良くならなかった。

同じ更年期障害を患った経験をもつ知人のアドバイスもあり、漢方に詳しい医師のいる別の病院で診てもらった。顔ののぼせと足の冷えがひどいことを訴えた。舌の色やむくみ、脈拍、おなかの張り具合など約30分かけて調べてもらった。体格が「がっちり型」「きゃしゃ型」どちらにも当てはまらないAさんには、上半身ののぼせを解消するため、「加味逍遙散(かみしょうようさん)」と呼ぶ漢方薬が処方された。1週間飲み続けると驚くほど症状が軽くなったという。

漢方薬は、薬効成分をもつ生薬を2種類以上組み合わせてつくる。生薬は木の皮や根など植物に由来するものなど、約200種類あるといわれる。もともとはせんじて香りも味わいながら飲んでいたため、風邪薬の葛根湯(かっこうんとう)のようにスープを表す「湯」が名前につく薬が多い。1800年前に中国で誕生した。日本に入ってきたのが奈良時代で、その後独自の発展を遂げた。

長期間のみ続けないと効果が出にくいと思われがちだが、必ずしもそうではない。風の治療に西洋医学では平均約6日かかったが、漢方薬だと4日ですんだという研究報告もある。「適切な診断で、ぴったりとあった漢方薬が処方されると驚くほど早く効果が出る」(東邦大学の青山幸生・非常勤講師)

天然成分から作られているといっても漢方薬はれっきとした薬。吐き気や下痢など副作用が出ることもある。ほかの薬と飲み合わせ問題も見逃せない。漢方薬を始める場合は、市販の薬には手を出さずに詳しい医師に一度診察してもらうことが大切だ。

漢方薬を使う漢方治療は、患者タイプを体質ごとに細かく分類していくのが特徴だ。寒がりか暑がりかを示す「陰陽」や、体ががっちりしたタイプかどうかをみる「虚実」なども判断材料にして健康状態を探る。バランスが崩れるていると、その機能を補完するための薬を処方し正常な状態に少しでも近づける。

西洋医学の分野では遺伝子の個人差に着目し最適な治療を見つける医療研究が盛んだが、「オーダーメード医療と共通する考えが、漢方治療にもある」と北里研究所東洋医学総合研究所の花輪寿彦所長は話す。同じ症状でも患者によって処方される薬が異なることは当たり前。頭が痛いからといって決まった漢方薬を飲めばいいものでもない。

現在は漢方薬のほとんどが保険適用対象。日経メディカルの調査(2003年)によると医師の約7割が漢方薬を使ったことがあるという。医学部を持つ全国80大学で漢方医学の教育を実施している。漢方薬に精通した医師は今後増えるだろう。

研究分野でも漢方薬の効能を科学的に証明する動きが広まっている。

花輪所長は、慢性頭痛に効くといわれる「呉茱萸湯(ごしゅゆとう)」を使って臨床研究に取り組む。西洋医学の新薬開発で利用する同じ手法で、呉茱萸湯を飲む集団と偽薬を飲む集団とで、症状の改善度合いに統計的な違いが出るかどうかを調べる。現在まだ参加者全員の解析が終わっていないが、終了分の結果をみると、呉茱萸湯には頭痛の回数を減らすなどの効果があることが確認できたという。

ストレスなどが重なり、検査しても目立った異常が見つからないにもかかわらず体調がすぐれない人は多い。西洋医学は具体的な病名が付きづらい「病気」の治療は苦手。こうした弱点を補えるのが漢方薬だ。

ただ、「科学的エビデンス(証拠)に欠き、使いづらい」と敬遠する医師が少なくないことも事実。西洋医学との融合が進むと、漢方薬を使いこなす医師は増える。治療の選択の広がりが患者にとっても朗報だ。



漢方薬の飲み方

時間
薬効成分が吸収されやすい食前(食事の30分以上前)または食間(食後少なくとも2〜3時間後)

お湯に溶かして飲むのがベスト
本来の漢方薬のように香りも楽しむ

量が多く一度に飲みきれない場合は…
お茶代わりに分けて飲むのもOK

どうしても味が苦手な人は…
ハチミツで溶いて口の中につける

(注)医師の指示に従ってください


2005.8.14 日本経済新聞