高齢化で増える肺炎死
80%は誤嚥性肺炎の死、自分の唾液で感染


高齢化で増える肺炎死

自分のお口の中の細菌に感染して肺炎を起こす、自分の唾液、痰などに含まれる菌群は、普段は常在菌として、それほど、繁殖はしないが、高齢になると免疫力の低下に伴って、繁殖する。 日和見感染である。ほかに深在性真菌症やEBウイールス感染なども怖い。

肺炎による死亡は、栄養状態の改善や抗菌薬の普及で減少していた。だが、社会の高齢化によって再び増えている。こうした状況を受け、成人用の肺炎球菌ワクチンの定期接種が今秋始まる。高齢者の肺炎予防には、まめな口腔(こうくう)ケアの実施など医療以外にできる対策も多い。

●病原体、球菌多く

肺炎は、細菌やウイルスが肺に入り込んで起きる肺の炎症だ。症状はせき、たん、発熱などが多いが、免疫が低下している高齢者では、発熱など典型的な症状が起きないことも多い。

数多くある肺炎の病原体のうち、最も多いのが肺炎球菌だ。肺炎全体の約3割を占める。戦前、肺炎は日本人の死亡原因のトップだったが、戦後にペニシリンなどの抗菌薬が普及して死亡数は減った。だが、1980年以降は再び増加に転じた。2011年には、がん、心臓病に次いで死因の3位となっている。また肺炎死亡者の96%は65歳以上の高齢者だ。

国立病院機構東京病院(東京都清瀬市)の永井英明外来診療部長は「抗菌薬は菌を抑えながら、患者自身の体力で回復するのを待つ薬だ。免疫が低下した高齢者に抗菌薬を使って、体力が回復するまでもつかどうかが問題。高齢者はワクチンによる予防が必要」と話す。

日本で承認された肺炎球菌ワクチンには成人用と小児用があり、成分が違う。成人用肺炎球菌ワクチンは、90種類以上ある肺炎球菌の型のうち23種類に効く。肺炎を起こす肺炎球菌の8割をカバーする。

小児用肺炎球菌ワクチンは、免疫反応が成熟していない乳幼児でも、ウイルスへの抵抗力が十分につくように開発された。現在は13種類の型に効くタイプが使われていて、予防効果は比較的長く続く。一方、成人用ワクチンは5年ほどで予防効果が下がるため、再接種が必要だ。

今年10月から予定される定期接種の対象は65歳と、60歳以上65歳未満で心臓などに障害のある人。経過措置として2018年度までは70歳以上の5歳刻みの年齢の人も対象となる。

●ワクチン接種で効果

国立病院機構三重病院(津市)の丸山貴也医師らが高齢者施設入所者を対象にした研究では、ワクチン接種者は未接種の人に比べ、肺炎球菌が原因の肺炎の発症が63・8%も減り、肺炎球菌以外の原因も含む肺炎全体でも44・8%減ったという。

さらに肺炎球菌への感染で気を付けねばならないのが、インフルエンザの流行時期だ。インフルエンザに感染すると、鼻などの気道の粘膜が傷つき、肺炎球菌に感染しやすくなる。世界的に大流行したインフルエンザ「スペイン風邪」(1918年)のように、インフルエンザの流行によって多くの人が亡くなるのも、インフルエンザ後にかかる二次的な肺炎が原因だ。

日本呼吸器学会は、高齢者に対しては、肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチン、2種類のワクチン接種を勧める。

定期接種が実施されると、医療費の削減効果も期待される。
厚生労働省研究班の試算によると、ワクチン接種後の医療費は、通常の肺炎治療をした場合と比べて年5115億円も削減できるという。

●重要な口腔ケア

肺炎の予防では、高齢になって食事の量が減ることによる「低栄養」や、食べ物や唾液が気道に入って細菌感染を起こす「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」への注意が必要だ。

誤嚥性肺炎の防止には、普段からの口腔ケアが重要だ。歯磨きに加え、舌や内ほおをブラッシングすることで口の中の細菌を取り除き、肺炎のリスクを下げる。
「口腔ケアをきちんとすれば、肺炎の発生率を約4割減らせる。口の中を刺激することは、せきやのみ込み機能の低下を回復させる効果もある」と永井さんは話す。
【MMJ編集長・高野聡】

*世界の医学の最新ニュースを発信する医学総合誌「MMJ」(毎日新聞社刊)編集長が、最新の医療情報を随時報告します


2014年3月6日 提供:毎日新聞社