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舌がんの小線源治療

舌がんの小線源治療 方法とメリットは

◆舌がんの小線源治療 方法とメリットは。

 ◇患部に針、粒子埋め込み 放射線を集中照射

 ◇治癒率、手術と同等/味覚、会話能力保つ

 舌がんの治療は患部を切除する手術が主流だが、味覚や会話能力を損なわずに治すには、放射線治療の一種の「小線源治療」が有力だ。

 「調子はどうですか」。8月下旬、東京都文京区の東京医科歯科大医学部付属病院で舌がんの小線源治療を受け、一般病室に移って1週間目という埼玉県春日部市の女性(67)に、渋谷均教授(放射線腫瘍(しゅよう)学)が声をかけた。

 女性は地元の医院で舌がんが見つかった。最初に診察を受けた口腔(こうくう)外科では「手術か化学治療」と言われたが、以前に乳がん治療を経験した女性は「抗がん剤を飲むと、つわりのような感じになる。手術も嫌だったので」と、紹介されて渋谷教授を訪ねた。

 「おかゆが食べられるし、言語障害もありません」と女性。渋谷教授は「口内炎ができて痛いかもしれないけど、じきに治るから」と励ました。

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 国内では毎年、3000-4000人が舌がんと診断され、口の中にできるがんの半数を占めている。女性より男性に多い。喫煙や飲酒、歯が常に舌に当たることなどによる刺激などが危険因子になるとされている。早期発見すれば、9割方は治るという。

 小線源治療は、がんの患部に放射性物質を埋め込み、体の内部からがん細胞に放射線を当てて壊す。舌がんのほか、前立腺がんや乳がんなどの治療でも用いられる。

 年間約100例の舌がんの小線源治療を手がける同病院では、まず、長さ4センチほどのセシウムやイリジウムの針を患部付近の舌に刺したまま、隔離された病室で7日間過ごす。飲み込むときに痛みがあるため、口や鼻を通したチューブから流動食をとる。経験した春日部市の女性は「食べられない1週間はつらく、体重が5キロ減った。唾液(だえき)はよく出るので、ティッシュを8箱も使った」と振り返る。

 患者の負担が大きい場合には、放射化した長さ2・5ミリの金粒子を埋め込むこともある。この場合も隔離病室で約1週間過ごすが、口からものを食べることができる。

 治療の間にがん病巣には70グレイの放射線が吸収される。原爆の全身被ばくでは3〜5グレイの放射線を浴びると死亡するとされるが、小線源治療の場合は放射線の当たる面積が非常に狭いため、他臓器への影響はない。針を抜いた後は一般病室に移り、1週間ほど経過を見る。多くの場合は口内炎などが起こるが、まもなく治まるという。

 舌がんの小線源治療は、リンパ節転移がなく、がんの最大径4センチ以下か、4センチを超えても表面に限られている場合に有効だ。渋谷教授によると、4センチ以下では治癒率が90%近くに上り、切除手術に見劣りしないという。

 最近は、がんの最大径が1センチ以内であれば、早期に手術すればほとんど日常生活に影響を残さず、がんを切除できる。しかし、がんが2センチより大きくなると、舌の3分の1から半分を切除しなければならず、言葉が不明瞭(めいりょう)になったり、食べたものを飲み込みにくくなるという。

 渋谷教授は「小線源治療を知らない患者も多く、できる施設も限られる。だが、疾患で全身麻酔ができない人、体力に不安のある高齢者では最初に考るべき治療法だろう。教師や僧侶など、声が大事な職業の患者で希望者が増えている」と話す。【西川拓】

 ◇マウスピースであごの骨守る

 放射線治療で問題になるのが、がん以外の正常細胞に与える放射線障害だ。舌がんの場合、筋肉でできている舌自体は比較的放射線に強いが、ほとんど皮一枚のあごは、何の防御措置も取らなければ、治療後5年で6割程度の患者に骨の壊死(えし)などの障害が発生するという。

 そこで、小線源治療の際には、アクリル樹脂などで作った入れ歯のようなマウスピース(スペーサー)を使用し、あごの骨に当たる放射線の量を数分の1に下げる。

 すき間があると放射線障害の原因になるため、渋谷教授は歯科と連携し、患者個人に合わせたスペーサーを作製して使用。「あごの骨の壊死などは、ほぼ防げる」と言う。



2009.9.8  記事 毎日新聞社