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「大動脈瘤・アテローム血栓脳卒中・心筋梗塞」
循環器疾患と歯周病、裏に菌血症


循環器疾患と歯周病、裏に菌血症

東京医科歯科大学2013年研修医セミナー第22週「歯周病と全身の健康との関わり」

糖尿病だけでなく、歯周病と循環器疾患の深い関わりも指摘されている。
腹部大動脈瘤やアテローム血栓性脳卒中。
これらの疾患と歯周病を結ぶメカニズムは。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野教授の和泉雄一氏が、自らが携わる研究を基に解説する。
まとめ:酒井夏子(m3.com編集部)

講師は、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野教授の和泉雄一氏

■腹部大動脈瘤形成に関与する歯周病

 次に、腹部大動脈瘤と歯周病との関係についてです。まず、腹部大動脈瘤ですが、その形成には炎症が関与していること知られていますが、詳細なメカニズムはまだ解明されていません。私たちは、腹部大動脈瘤の病態の進行に歯周病原細菌が関与しているのではないかと、本学循環器内科の磯部光章教授と東京大学先端臨床医学開発講座の鈴木淳一准教授との共同で、動物を使用した基礎実験を行いました。

腹部大動脈瘤誘導と歯周病原細菌の感染

 これがその研究です。まず、塩化カルシウムを腹部大動脈に塗布することによって、大動脈瘤を誘導する実験モデルを作成し、P. gingivalis(Pg)を腹部に注入することにより歯周病原細菌の感染を誘導しました。腹部大動脈の直径を調べると、塩化カルシウムを塗布しPgを感染させた群(Ca+Pg+)は、塩化カルシウムを塗布しPgを感染させない群(Ca+Pg-)に比べて有意に大動脈径が太く拡大していました。

ワイルドタイプマウスにおける大動脈径の変化

 ここでは、TLR-2とTLR-4のノックアウトマウスを使用して、ワイルドタイプマウスと比べてみました。ワイルドタイプマウスの場合には塩化カルシウムで実験的に大動脈瘤を誘導し、Pgを感染させると大動脈径が大きくなるのですが、TLR-2ノックアウトマウスでは大動脈径の拡大が起こらず、TLR-4ノックアウトマウスではワイルドタイプマウスと同じように動脈径の拡大が起こりました。

TLR-2およびTLR-4ノックアウトマウスにおける大動脈径の比較

これらのマウスの大動脈壁の組織学的変化を観察すると、ワイルドタイプマウスとTLR-4ノックアウトマウスでは大動脈壁の内弾性板が破壊されているのに対し、TLR-2ノックアウトマウスでは血管壁の内弾性板が破壊されず保存されていました。これらのことから、腹部大動脈瘤の形成には、歯周病原細菌が密接に関与し、それは、TLR-2を介した感染によるものであると推測されます。

大動脈の組織学的変化

■アテローム血栓性脳卒中の要因も歯周病

 歯周病と脳卒中との関係も検討しました。これは広島大学病院脳神経内科学の細見直永先生との共同研究で、脳卒中患者さんの血清中の歯周病原細菌、P. gingivalis(Pg)、P. intermedia(Pi)、A. acinomycetemcomitansに対するIgG抗体価を測定したものです。ここで心房細動による脳卒中の患者では、PiとPgに対する抗体価が有意に高値を示しました。さらに、アテローム血栓性脳卒中患者は、ラクナ梗塞性脳卒中患者や心原性脳塞栓症患者に比べてPiの抗体価が有意に高く検出されました。

 歯周病原細菌の関与によりアテロームが形成され、血栓の影響によって脳卒中の原因になったことが考えられます。やはり歯周病原細菌の関与が非常に重要かと思われます。

歯周病と脳卒中の関係

■循環器疾患と歯周病の関連の裏に「菌血症」

 なぜ、歯周病原細菌が循環器疾患に関わってくるかということですが、菌血症が考えられます。Lockhartらの報告を見てみますと、抜歯して抗菌薬を使わなかった場合、1分半後には口腔内の細菌が血中に入り込み、5分後にはピークを迎えます。しかし、20分後にはかなり殺菌されています。20分を超えますとあまり問題がありません。歯を抜いて抗菌薬を使用すると、口腔内の細菌が血中に入る込むことがかなり抑えられます。

ブラッシング後・抜歯後の菌血症発生率

 ブラッシングの場合はどうでしょうか。歯を磨くだけでもこれだけ菌血症が起こり、1分半後にはピークを迎えますが、20分後には、全く問題ないレベルまで殺菌されます。ここで5分から15分位まではかなりの量の細菌が血中に入り込んでいることが分かります。血液の体循環を考えた場合、血液が身体をひと回りするのに大体2分、長くて5分と言われています。この時間を考えると、生きた細菌が十分末梢まで到達することが可能だと考えることが出来ます。

歯周病原細菌P. gingivalisによる血小板凝集の誘導

 これは本学血管外科の岩井武尚名誉教授のグループの電子顕微鏡を使った研究です。多血小板血漿中にP. gingivalisを入れて培養すると、5分後には小さな血小板凝集塊が出来ます。さらに10分後には大きな血小板凝集塊を形成し、この中にP. gingivalisが入り込みます。血管の中では、このような現象が起きていることが想像できます。

 血小板で守られた歯周病原細菌が血液中に存在すると、それが血管壁に付着して、動脈硬化や大動脈瘤の形成につながると考えられます。静脈ではこのような現象はまだ認められていません。

 すなわち、P. gingivalis(Pg)が口腔内から血中に進入します。その後、Pgは血管内皮細胞のTLR-2を介して血管壁内に入り込みます。ここで、アテロームの形成につながり、血栓が形成されます。形成されたアテロームは、Matrix Metalloproteinase等の影響でプラークの破裂が起こり、血栓として末梢に流れて血管の閉塞につながります。そして閉塞した血管周囲の組織が壊死してしまいます。

歯周病原細菌P. gingivalisによる血小板凝集の誘導

 このようなメカニズムを考えますと、歯周病、特に歯周病原細菌が循環器系の疾患に深く関わっていることが推測されます。また、これまでの説明でお分かりかと思いますが、歯周病を予防することによって、全身の健康に寄与することが容易に推測できます。現在、日本が直面している高齢化社会では、歯科と医科が連携して、糖尿病や循環器疾患を中心とした生活習慣病に取り組んでいかなければならないということがお分かり頂けたと思います。

司会 和泉先生、どうも有り難うございました。せっかくの機会ですから、何か質問はありますか。

研修医A やはり歯周病の患者さんがいたら積極的に歯科医に紹介したほうがいいでしょうか。

和泉 診察では必ず口の中も見てください。歯肉に炎症がある、歯がない、歯がぐらぐらしている、そのような場合には必ず歯科を受診するようにしてください。特に高齢者はそういう方が多いです。

研修医A 実際、診かたはどのようにすればいいのでしょうか。

和泉 歯肉が赤く腫れていないか、たくさん汚れがついていないか、それから歯が動いていないか確認してください。問診で、歯ブラシを使ったら出血をする、口臭がする、というような症状があれば必ず歯科を受診してもらい、口腔内をきちんとケアをしてください。それはぜひお願いします。特に、糖尿病の患者さんがきたら、必ず口腔内を見て、歯科と医科の両方で治療をしていく必要があります。循環器疾患の場合には、循環器疾患から歯周病が悪化する例はまだありません。また、腎臓疾患の患者さん、関節リウマチの患者さんの場合にも、必ず口腔内の疾患、特に、歯周病の有無を見て下さい。

引用:研修最前線 m3 2014年4月7日(月)

更新日:2014年6月4日