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新基準の初期むし歯段階7分類

「虫歯」削らずに治せる 初期段階の診断基準普及へ

新基準の初期むし歯段階7分類


白く濁っている部分(矢印)は初期虫歯の状態だ(日本ヘルスケア歯科学会の杉山精一代表提供)(写真:産経新聞)

 虫歯というと、削って治すイメージが一般的。だが、初期の虫歯なら口内環境を整えれば歯の再石灰化が進み、削らずに治すことが可能だ。日本の診断基準では、穴が開いてからが虫歯とされるが、海外では初期段階の虫歯を診断できる基準「ICDAS」(アイシーダス、International Caries Detection and Assessment System=国際的う蝕(しょく)探知評価システム)」の普及が進み、日本でも導入の動きが広がっている。(油原聡子)

 ◆穴が開く前に

 虫歯は、歯の表面に付いた歯垢(しこう)(プラーク)内の虫歯菌が作る酸が溶け出し、歯の表面のエナメル質に含まれるミネラル分(リン酸やカルシウムなど)が溶け出す「脱灰(だっかい)」によって起こる。通常は、脱灰が起こっても唾液の成分にはミネラル分が含まれているため、再石灰化される。

 しかし、糖分の取り過ぎなどで脱灰と再石灰化のバランスが崩れると、虫歯になる。初期の虫歯は、この脱灰が起こっている状態。歯の成分が溶け出しているため、白く濁ったシミのようになる。

 東京医科歯科大学の田上順次教授は「初期虫歯の状態なら適切なケアと治療で再石灰化が可能。穴が開いてからでは削る治療しかできない。治療した部分がまた虫歯になるケースも多く、穴が開く前に治療することが重要だ」と話す。

 再石灰化にはまず、食事後の歯磨きで口の中の環境を整えるといいという。虫歯菌は砂糖などの糖分で増えて酸を生み出すため、しっかりと歯磨きをするといい。

 「寝ている間は唾液が出ないため、再石灰化が行われない。夜寝る前の歯磨きはしっかりと行ってほしい」(田上教授)

 唾液を出すことも効果的だ。食事のときによくかんだり、再石灰化を促すミネラル成分「CPP−ACP」の入ったシュガーレスガムを食べたりして唾液の質を高めるのもいい。

 ◆世界基準でも

 初期虫歯から治療を始めようという動きは、世界的に始まっている。近年は虫歯予防に有効なフッ素入りの歯磨き粉などが普及。虫歯になるスピードが遅くなり、穴が開く前の、脱灰が始まった「初期虫歯」の段階で発見することが可能になった。

 初期虫歯の治療に利用されているのが、世界の研究者がつくった虫歯の新しい診断基準「ICDAS」。これまでは世界的な虫歯の統一基準がなかった。2002年から研究が始まり、05年に完成した。

 基準はコード0〜6の7段階。歯の見た目の状態で虫歯の進行度を区分しているのが特徴で、「健全な歯」はコード0。日本の診断基準では歯に穴が開いてからが虫歯とされるが、ICDASではエナメル質が変化している「初期虫歯」はコード1、2に区分され、治療の対象だ。

 国内でもICDASのシンポジウムが開かれるなど導入の動きが出ている。日本ヘルスケア歯科学会の杉山精一代表は「これまで、初期虫歯は予防という観点で捉えられていた。ICDASが導入されれば、患者も初期虫歯を早く自覚できる。穴が開く前でも病変。治療という意識を持つことでケアに力も入り、削る治療に進まないようにできるだろう」と話している。

2012年06月07日 (木)"治る虫歯"の診断基準

高血圧の人がなぜ薬で血圧を下げるか、ご存じですか? そう、高血圧は血管に負担をかけ心臓病や脳卒中など命に関わる生活習慣病の引き金になるので、そうならないために「入り口の段階」で治療しておこうというものですよね。

では、虫歯も“歯に穴が開く前に”分かったら・・・。実はそんなことが世界の歯科医療では主流になっていて、日本も追いかけようとしている、というお話です。

新基準の初期むし歯段階7分類

取材に訪れたのは、千葉県八千代市の歯科医院です。この歯科医院、一風変わった虫歯の診断基準を使っています。

新基準の初期むし歯段階7分類

これまで、虫歯は学校で検診の時に使う診断基準として、虫歯を指すCと数字を組み合わせて、
C0(虫歯になりそう)
C1(表面に穴が開いた)
C2(虫歯が中まで到達)
C3(虫歯が歯の神経まで到達)
C4(虫歯で歯が崩壊)
となっていました。

しかし、この歯科医院は違います。

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まず、歯をきれいに磨いたうえで、空気を吹き付けます。そして、歯の表面に異常がないか7段階で診断します。
コード0(健康な歯)
コード1(空気で乾燥させると表面が白濁する)
コード2(目で見て白濁している)
コード3(穴が開いている)
コード4(歯の内部にも虫歯の陰がある)
コード5(歯の奥まで穴が開いている)
コード6(コード5が更に拡大)

注目されるのはコード1とコード2です。

新基準の初期むし歯段階7分類

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歯に穴が開く前の初期の虫歯を診断し、この時点で治療を開始します。実はこの段階だと、表面のエナメル質が修復される「再石灰化」によって健全な歯に戻すことができるのです。

今の診断基準はどういう状態を「初期」とするかがあいまいで、ほとんどの場合、歯に穴が開いてから治療を始め、ドリルで周辺を削り、樹脂や金属の詰め物をしています。新しい基準は、「虫歯が治る段階で発見し治療してしまおう」という、歯科医療の大転換なのです。

この医院の杉山精一歯科医師によると、虫歯で歯を失っていく典型的なパターンは、以下の通りです。
(1)10代に虫歯で詰めものをする
(2)20代で詰めものの周辺が虫歯になり、神経を抜く
(3)30代で再発
(4)40代、50代でどうにもならなくなり、歯を抜く。
思い当たりませんか?
私にも(3)の段階が1本あります。

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特に10代から20代前半は永久歯が生えたばかりで虫歯になりやすく白濁する傾向が顕著にあらわれるということで、若い段階で予防することがきわめて重要なのだそうです。

では初期の虫歯の治療は、というと、▼フッ化物の塗布、▼歯磨きの励行、▼食習慣の改善で、再石灰化が促され、半年程度で元の健康な歯に戻っていくケースが多いそうです。実際私が取材した10代の女の子は、4か月後にはコード1が健康な歯に、コード2はコード1になっていました。

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虫歯の予防などを専門とする日本口腔衛生学会によりますと、国際的にはこうした診断基準が主流になりつつあるそうで、学会としても今の基準を変更して、虫歯の初期の症状をより明確に定義する方向で検討を始めたということです。

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削って詰める時代から、早期に診断し健康な状態に戻す時代へ。こうした予防的な歯科医療に取り組む歯科医院は、徐々に広がっているそうで、私も子どもにはこうした治療を受けさせたいと思います。

(参考)
新基準=ICDAS。
新基準を導入している学会=「日本ヘルスケア歯科学会」。

2012年11月14日 提供:産経新聞