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"インプラント死亡事件"無罪を主張 元スタッフのコメント

飯野被告が"インプラント死亡事件"無罪を主張 元スタッフのコメント

インプラント治療において女性患者を死亡させたとして、業務上過失致死傷罪に問われた歯科医師の飯野久之被告の初公判が9月3日、東京地裁で行われた。被告側は「当時においては、被告は最善を尽くしており、また、その医療水準では、事故に至ることの予測は不可能であったと考えるのが妥当と考える」と無罪を主張した。一方、検察側は「インプラント治療の事故は、国内外を含めて報告されており、雑誌でも注意を促す記述があるのは事実で、注意を怠った」と指摘した。

この事故は2007年、下顎骨にインプラントを埋入したが、その時に、埋入角度や深さなどについて基本的注意を怠り、下顎骨を貫通し動脈を裂傷し大量出血の結果、窒息死に至らしめたというもの。当時の飯野被告は、日本口腔インプラントの認定医でもあり、専門雑誌に論文を投稿したり、各地で講演を行うなど、臨床症例数、埋入本数などを公表しており、インプラント治療の第一人者としての評価されていた。こうした背景から、歯科インプラント学会には大きな衝撃を与えた事件であった。

マスコミで報道されてからは、様々な情報が錯綜した。手術後の対応に問題を残し患者遺族側から、その点を問題視していること。ついては、当初は、事実については、概ね容認していたが、途中から一転して「事実は誤認」として、自己が行った治療の正当性を主張するようになった、結果として法廷で争うことになり、施術した技術をどう評価・認定するのかが問われる形になった。

初公判を終えた後、当時、スタッフであった二人から匿名を条件に、電話ではあるがコメントを取ることができた。その一人(千葉県船橋市・歯科医院勤務)は、「この件でも、知っていたのは数人のスタッフだけでしたし緘口令が敷かれました。予定していたインプラント治療は延期、あるいは患者数自体が減りました。経営自体への影響を考慮したのでしょう、私は退職を余儀なくされましたが、その後の飯野歯科については知りません。インプラント埋入本数は確かに多かったですから、患者さんと色々あったのは事実です。それでも一応、お世話になった先生ですから、今となっては、何とも言えない複雑な気持ちです」と述べていた。

他の元スタッフ(東京都開業)は「私はスタッフとして勤務してから、そんなに時間を要することなく、院長との基本的な点で意見対立がありましたので、"ここは長くは勤務するところではない"と思い始めたのは事実です。まあ、結果として間もなく辞めましたが。一生懸命な歯科医師ですが、私とは違いました。懸念しているのが、インプラント治療がダメではないことは理解してほしいですね。裁判所がどう判断するのか注目です」と淡々と話をしていた。

医療裁判でのポイントの一つは、「治療当時の医療水準」「当該学会のガイドライン」「術者の基本的な姿勢」などが挙げられるが、刑事事件の分野において、患者側からの主張が受け入れられないのはこの点であるとされる。今回の裁判が、どのような判決が出るのか推移を見守る必要があるようだ。

日本口腔インプラント学会は、渡邉文彦・新理事長の下で、インプラント治療を巡る対策・啓発活動に尽力していくとしているが、来る9月23日(金)〜23日(日)、大阪国際会議場で、日本口腔インプラント学会学術大会が開催され、特別講演、基調講演のほか、「患者目線からみた 安心のインプラント治療とは」「インプラント治療従事者が理解しておくべき倫理観」「問診:患者との信頼関係構築への第一歩は問診から」といった臨床・患者の視点にしたテーマの講演も予定されている。

奥村 勝 氏 

オクネット代表。明治大学政経学部卒業後、一般企業に就職。さらに東京歯科技工専門学校を経て歯科医院、歯科技工所に勤務。さらに日本歯科新聞社編集部記者、雑誌「アポロニア」(日本歯科新聞社)編集長、新聞「Dental Today」(医学情報社)編集長を歴任

2012年9月5日 提供:Dentwave.com