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いびき 
眠気のない睡眠時無呼吸症候群も

 熊本県上天草市で09年10月、遊漁船が岩に激突し、釣り客2人が死傷する事故が起きた。原因は男性船長(当時53歳)の居眠り。国土交通省運輸安全委員会の今年1月の報告書によると、船長は睡眠中いびきをかき、就寝後3〜4時間で目が覚めることが頻繁にあった。船長は事故後、中等度の睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断された。一方で船長は「目覚めの悪さや眠気はなかった」と証言。安全委は本人に自覚のない慢性的な睡眠の質の低下が居眠りの誘因と結論づけた。

 いびきによって一時的に息が止まるSASは、03年にJR山陽新幹線の運転士が居眠り運転したトラブルをきっかけに注目を集めた。いびきは、舌根(ぜっこん)が沈み、気道咽頭(いんとう)がふさがれて起きる。その時、10秒以上の呼吸停止が1時間に5回以上、あるいは一晩(7時間)に30回以上でSASと診断される。

 熟睡感が得られず、常に眠気が抜けないイメージが一般的だが、谷川武・愛媛大医学部教授は「眠気の自覚がないSASの方がむしろ多く危険」と指摘する。06年にトラック運転手5287人を対象とした調査では、10%に中等度以上の睡眠呼吸障害を確認した。だが、眠気を聞くテストでは、重症者の76%が自覚していなかったことが判明。慢性的な眠気を加齢による疲れやすさと誤解し、缶飲料やたばこで紛らわすことが多いと考えられるという。

 国内のいびき人口は推定約2000万人。そのうちSAS患者は200万人以上とされるが、受診者は約20万人。谷川教授は「運転手なら事業者が精密検査を奨励し、一般の人は家族が気付いてあげて」と早期発見の意義を強調する。

 「接客中も睡魔に襲われた。家族はうるさくて眠れず、家庭崩壊寸前だった」。福岡県那珂川町で理髪店を営む梁瀬憲二さん(43)は09年、重症の睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断された。その日から始めたのがCPAP(シーパップ)療法。枕元に置いたティッシュ箱大の装置で空気を加圧し、ホース伝いに鼻マスクから送り込む。保険が適用され月約4500円で貸してもらえる。「10代のころのような爽快な目覚めが戻った」と梁瀬さん。眠気がなくなっただけでなく、食事制限もあって90キロあった体重は75キロに減り、頻繁だった風邪もかかりにくくなったという。

 現時点で有効薬のないSASには、CPAPがほぼ唯一の治療法だ。対症療法なので使い続けなければならないが、まず、いびきを止めることで生活の質は改善し、心血管疾患のリスクを抑えることができる。SAS患者らで作る東京のNPO法人「SASネット」によると、鼻が乾くなどの理由で装置が合わない患者は2〜3割。圧力の微調整が欠かせず、同ネットは相談に応じてくれる推薦医療機関をホームページ(http://www.sas-j.org/)に掲載している。

 SASは命にかかわる合併症を引き起こす。健康な人に比べ、高血圧が3倍▽心疾患が2倍▽脳血管障害が2倍--とされ、1時間に20回以上の無呼吸がある人は8年後の生存率が63%に落ち込むという米国の調査もある。

 軽〜中等症者は横向きで寝るだけでも効果がある。下あごを少し前に出すマウスピースも市販されている。同ネットの渡辺了之副理事長は「治療法はそろっている。放置さえしなければ治る病気だ」と話す。

2011.02.15〜17 記事提供:毎日新聞社