White Family dental-site



海外での歯科技工物依託の問題

海外委託技工問題:
阿部・神歯大助教「海外に委託する歯科医師は固定化されている」

海外委託技工の問題は裁判を起こすまで影響を与え、様々な問題を提起することに...

 海外委託技工の問題は裁判を起こすまで影響を与え、様々な問題を提起することにもなった。現在、その状況については、少しずつ全体的な把握ができ始めているが、この問題に対して、「海外委託製作に関する研究」として、阿部智・神歯大歯科医療社会学助教が、このほど日本口腔衛生学会で発表した。10月31日、改めて阿部助教に話を聞くと「現状報告をしたもので、海外委託技工件数は、全体の中では、報道されているほど多くないと思う。今後の動向は何とも言えないが、今回の調査結果を踏まえて、さらなる分析・対応策をする時期にきているのではないか」と述べている。講演の要旨は以下の通り。

 47都道府県を対象に、日本歯科医師会会員61,460名の中で、5%(3,037名)を無作為に抽出し、アンケート形式の往復郵送方式とした。実施期間は2008年10月29日〜同12月31日、回収数が2,021通であった。歯科補綴物の海外委託経験率は7.4%。毎月の発注件数は10件未満が96.0%。さらに今後発注する予定がないと回答したのは、83.8%ということで、平成18年以前から、69.3%、平成19年:24.0%、平成20年:6.7%と減少している。委託は、中国:`71.3%、アメリカ:15.3%、EU諸国6.7%であった。委託方法は、歯科技工所経由が最も多く、84.7%をであった。具体的な補綴物の内容は、ノンクラスプ義歯78.0%、オールセラミッククラウン・ブリッジ8.7%、金属床義歯6.0%、陶材焼付クラウン・ブリッジ6.0%であった。

 考察としては次のようにまとめている。「歯科補綴物の外注の10〜15%が海外に委託していると推定される米国(2006年)と比較して、我が国では、歯科補綴物の海外への委託が少ない。新規で海外へ委託する歯科医師は、年々減少しており、歯科補物を海外に委託する歯科医師は固定化されていると考えられる」と強調した。一部関係者から指摘されていた、"海外委託技工"が増加しているのでという話を否定することになった。また、委託される具体的な補綴物に関しては「ノンクラスプ義歯が多かったのは、過去に使用した材料が薬事法上、国内で製作できず、海外に委託したものと考えられる」と予想された結果といえる。一方、歯科補綴製作の海外委託の多くのが国内の歯科技工所経由であったが、利益率の高い陶材焼付クラウン・ブリッジなどの委託が少なかったことの理由については「歯科医師は希望していないだけでなく、歯科技工所が積極的でなかったことを示唆している。日本の歯科医師が歯科技工士と直接コミュケーションを取ることで、品質管理を行う傾向があることが影響していると考えらえられる。歯科技工料金の内外価格差を理由として陶材・焼付クラウン・ブリッジを多く発注する欧米諸国の現状とは異なり、我が国における歯科補綴物の海外委託の大きな特徴であると考えられた」と説明している。

 受託する中国の歯科技工所については、その現地での地域状況、人数ほかの規模、流通など、まだ課題があるのも否定できない。また、海外委託への発注の窓口になってHP上で営業を行っている日本の歯科医師がいるのも事実。阿部助教は「患者に海外委託に際して一番の問題は、その委託先の技工所を説明しているかどいうか、ということではないですか。海外でも技術が日本以上のケースもある」と指摘している。今後の歯科技工(士)の在り方を、正面から議論する必要は、高まっているのは事実のようだ。
(奥村 勝)

2010.11.2 記事提供:歯科医師ニュース