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舌の発達歯並びに影響、乳児の母乳吸飲は大切な運動

舌の発達、歯並びに影響

◇乳糖、虫歯になりにくく、おなかにもやさしい

 「赤ちゃんにとって、おっぱいを飲む動作はパワーとテクニックのいる大変な作業なんです」。今月8日、埼玉県秩父市で開かれた講演会。妊婦や母親たちに母乳育児の重要性を訴えたのは、地元で今井歯科クリニックを経営する今井美行院長だ。「きれいな歯並びや虫歯ゼロは母乳育児から始まる」と、スライドを見せながら語りかけた。日々の診療を通して今井さんは、歯並びが良い子は母乳で育った子が多いと感じ、今年10月に「おっぱいとお口の話」(メディカ出版、1890円)を出版。また、市内の産婦人科医と協力し、月1回の母親教室を開いている。

 赤ちゃんがおっぱいを吸うと乳腺が刺激される。すると、母乳を作り出す複数のホルモンの分泌が促され、母乳がスムーズに出るようになる。これら母乳の分泌にかかわるホルモンは別名「愛情ホルモン」と呼ばれ、母子のきずなを深める役割もあるとされる。

 赤ちゃんは母乳を飲むとき、唇をおっぱいに密着させ、上あごの硬い部分と舌でしっかりはさんで圧迫しながらしごき出す。その際、舌をうねらせるように筋肉を動かせる。今井さんは「舌の発達が、あごの骨や歯の成長に大きく影響する」と指摘する。

 狭い産道から出てきた赤ちゃんのあごは、上下とも舌の力で前に押し出され、きれいなアーチ形に成長する。さらに、舌と唇の間に安定した空間を確保するのにも、舌の筋肉の発達が必要だ。

 フィンランドのトルク大の研究グループは、母乳育児が2カ月以下だった子供は、9カ月以上の子供より、下あごが後ろに引っ込んだかみあわせ「遠心咬合(こうごう)」となるリスクが4倍高いとの研究結果をまとめた。母乳だとおっぱいを吸うときに赤ちゃんの舌と下あごが前に誘導されるため、母乳期間が長いと下あごの発達が促進されるという。

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 では、虫歯との間には、どんな関係があるのか。今井さんは母乳に含まれる糖分に注目する。虫歯の主な原因はミュータンス菌という細菌だ。砂糖と一緒になると、べとべとした不溶性グルカンという塊となり、歯に付着する。また、砂糖から作り出された多くの酸に歯が溶かされ、虫歯の穴ができる。

 母乳に含まれる乳糖は、べとべとせず、作られる酸は砂糖を食べた場合の半分程度。また、乳糖にはおなかの中の善玉菌であるビフィズス菌の繁殖を助ける作用もある。

 ただし、夜に授乳をしながら寝かせ付けると、虫歯が進行しやすいので注意が必要だ。赤ちゃんは普段、歯についた汚れを唾液(だえき)で自然に洗い出しているが、睡眠中は、唾液洗浄ができず、近くに唾液腺のない上の前歯は特に虫歯になりやすい。

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 日本では1950年以降、粉ミルクの利用が増えた。厚生労働省の調査(05年)によると、妊婦の96%が母乳育児を望んでいるが、出産後1カ月時に母乳のみで育てている割合は42%に過ぎない。背景には、出産後に母子が離れて入院すると、赤ちゃんが欲しがる時に母乳を与えられない▽母乳が出にくい1カ月は、赤ちゃんの体重が大きく増えず、ミルクを勧められる▽哺乳(ほにゅう)瓶の方が赤ちゃんが飲みやすく、授乳が楽--などの事情があるという。

 講演会に参加した守屋文子さん(36)=同県小鹿野町=は第2子を妊娠中だ。「長男を母乳で育てたとき、最初は痛かったり、周囲から成長がゆっくりだと言われ、ミルクと併用した。2人目はもう少し母乳で頑張ってみたい」と話す。

 今井さんは「母乳が出にくい場合もある。赤ちゃんが母乳を吸う場合の口の周りの筋肉や舌の動きに近い形でミルクを飲むことができる哺乳瓶の人工乳首も開発されている」とアドバイスしている。【足立旬子】

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 母乳にまつわる母子の健康について、次週は服薬との関係を取り上げます。

 ◇虫歯菌の感染、主に母親から

 生まれたばかりの赤ちゃんは、虫歯の原因となるミュータンス菌には感染していない。乳歯の奥歯が生える1歳7カ月から2歳7カ月にかけて、主に母親の唾液を通して感染するとされる。口移しで食べさせない、共通のはしやスプーン、食器を使わないなどの注意を徹底することで感染を予防できる。

 また、母親の口内の細菌を減らせば、感染の機会を減らせる。キシリトールガムはミュータンス菌の増殖を抑える効果が知られている。


2009.11.13 記事提供:毎日新聞社