コレステロールの基準改定
食物繊維で吸収抑制
肉類控えめに

動脈硬化を恐れコレステロールを嫌う人は多い。しかし、コレステロールは健康維持に欠かせない脂質でもある。大切なのは体内にバランスよく存在するよう、血液中で「善玉」を増やし「悪玉」を減らすことだ。

日本動脈硬化学会は今春、コレステロール値が正常かどうかを決める診断基準を5年ぶりに改定した。従来のように「善玉」と「悪玉」を合わせた総コレステロール値ではなく、「善玉」が少ないか、「悪玉」が多いかで判断する=改定後の診断基準は左上図参照。病名も「高脂血症」から「脂質異常症」に変更になった。

「善玉」で回収
体内に取り込まれたコレステロールは、血液中ではリポたんぱくと呼ぶ状態で存在する。比重の多いタイプ(高比重リポたんぱく=HDL)と軽いタイプ(低比重リポたんぱく=LDL)があり、性質は異なる。HDLには全身の組織で余ったコレステロールを回収する働きがある。一方、肝臓でコントロールを受け取り全身の組織にくまなく運ぶLDLは血管壁の内側にもぐり込み動脈硬化を招く。このため、HDLを「善玉」、LDLを「悪玉」と呼ぶ。

欧米人に比べて日本人には「善玉」の値が高い人が多い。基準改定の中心メンバーである帝京大学の寺本民生教授は「総コレステロール値が高くても問題ない人が6−7%いる。無駄な投薬をなくすために、診断基準を変更した」と説明する。

同じ脂質仲間の中性脂肪が体のエネルギー源になるのに対し、コレステロールは細胞膜やホルモン、消化酵素の働きを助ける胆汁酸の元になる。大切な栄養成分で、体の中で再利用する仕組みがある。コレステロールといえば油っぽい食事を連想しがちだが、「食べ物から摂取するのは全体のおよそ4分の1。残りは胆汁由来のもの」(近藤和雄・お茶の水女子大学教授)。

動脈硬化にならないためには「悪玉」を減らすのが一番。どうすればよいのか。
コレステロールを多く含む食品を敬遠するより、食物繊維を多く取るよう心がけるのが効果的。食物繊維には小腸でのコレステロール吸収を抑える働きがあり、体内由来の「悪玉」を取り除く。ワカメなどの海藻類や大根、ゴボウといった根菜類を多く食べるようにしたい。

脂肪で「悪玉」増も
国内外の研究で、「悪玉」は脂肪摂取量と比例して増えることも分かった。詳しい仕組みは未解明だが、肝細胞への取り込みが悪くなるなどの理由が考えられるという。

脂肪の中で特によくないのが、肉類に含まれる脂身だ。血液中の悪玉コレステロールや中性脂肪の量を増やす働きがある。逆にオリーブ油や菜種油に含まれるオレイン酸や紅花油に含まれるリノール酸は悪玉コレステロールを減らす。東京慈恵会医科大学の多田紀夫教授は「脂肪の量を減らすとともに、質を変えることも大切」と指摘する。ただ、オレイン酸もリノール酸も取りすぎるとカロリー過多になるのは変わりない。

「悪玉」を減らすため、寺本教授は「和食中心の食事をし、適度に飲酒を控えること」とアドバイスする。揚げ物など脂肪分の多い食べ物を取る量が自然と減ってくる。昼食などで丼ものを食べるサラリーマンも多いが、食べる量を7割程度に抑える。しばらくは空腹に悩まされるが、「1−2週間我慢すると満腹中枢がリセットされて気にならなくなる」(寺本教授)。

「悪玉」が多い状態が10−20年続くと動脈硬化になるとされている。健康診断で赤信号」がともった人は、あわてずに生活改善で「悪玉」退治に取り組むことだ。(合田 義孝)






コレステロールと心筋梗塞の関係

1.LDL(悪玉)コレステロールが増加
脂肪の摂取量が増えると、血中のLDLが増える。HDL(善玉)コレステロールが少ないと、LDLの回収が減る。中性脂肪が多いとHDLが減る

2.動脈硬化が起きる
血中のLDLが増えると血管壁に蓄積し、厚くなる。白血球の一種マクロファージ(大食細胞)が取り込んで、破れやすいこぶができる
3.血管壁が破れる
こぶが傷つき破れると、修復のため血中の血小板が集まり、血栓(血の塊)ができる
4.心筋梗塞になる
血栓が大きくなっていくと、血管が詰まり、心筋梗塞などを発症する

脂質異常症の診断基準

・LDLコレステロール⇒140以上
・HDコレステロール⇒40未満
・中性脂肪⇒150以上
いずれかに該当

動脈硬化のリスク別管理目標値
危険因子6項目

1.年齢 男性45歳以上、女性55歳以上
2.高血圧
3.糖尿病
4.喫煙
5.冠動脈疾患の家族歴
6.HDLコレステロール40未満
危険因子の数
LDL目標値
治療方針
低リスク(0)
160未満
生活習慣の改善が中心
中リスク(1〜2)
140未満
高リスク(3以上)
120未満
心疾患の病歴あり
100未満
生活習慣の改善指導と投薬治療の併用

注)日本動脈硬化学会のガイドライン(2007年版)、単位は血液1デシリットル中のミリグラム値

コレステロールを多く含む食べ物

食品
コレステロール含有量
卵黄 中1個分 231ミリグラム
タラコ 1/2腹 175ミリグラム
ウナギ
(かば焼き)
1串 184ミリグラム
鶏レバー 50グラム 185ミリグラム
若鶏もも
(皮なし)
100グラム 92ミリグラム
ししゃも 1尾 60ミリグラム
牛肉もも 100グラム 60ミリグラム

(日本食品標準成分表より)



2007.8.12 日本経済新聞