一般に、日本人は食塩の取り過ぎが原因で高血圧、脳卒中、胃がんなどを起こす人が多い。ところが、近年この種の病気は減少傾向にある。それは食生活が欧米化し、肉、魚、卵、牛乳などの動物性たんぱく質を十分にとるようになったからだと思われる。

終戦直後、つまり1946年頃の日本人の動物性たんぱく質摂取量は10グラムくらいだった。その後、摂取量は増え、現在は40グラム前後になった。一方、「食塩の運搬者」と言われている炭水化物の摂取量は減少している。食塩の摂取量は、かつては13グラム以上だったのが、現在は11グラムくらいに減っている。これを裏付けるように、たんぱく質を十分にとると、食塩の摂取量が減ってくるという研究がある。

昭和女子大学大学院の木村修一教授は、ラットを2つの群に分け、低たんぱく質食か高たんぱく質食を与え、水と食塩水を自由に飲ませた。すると、低たんぱく質群では、はじめは水を飲んでいたが、段々と食塩水を飲むようになり、高たんぱく質群では、終始食塩水には目もくれず水だけを飲んだ。たんぱく質を十分にとっていると、塩辛いものがあまり欲しくなくなるようだ。

また、たんぱく質でも大豆などの植物性たんぱく質は、肉などの動物性たんぱく質に比べて減塩効果が弱い。さらに動物性たんぱく質には、うまみ成分であるグルタミン酸やイノシン酸が多く含まれ、その相乗効果によって、うまみが大変強く、これも減塩効果を発揮するという。現代人が薄味嗜好になったのは、動物性たんぱく質食品を昔より多くとるようになったためかもしれない。

(新宿医院院長  新居 裕久)

2007.3.24 日本経済新聞