治りにくい炎症注意

「舌にもがん」忘れずに
他の病変は比較的軽症

年末にごちそうを食べ、いつもより舌を酷使した人は多いだろう。舌は食べたり話したりするために欠かせない大切な気管。荒れたり、ひりひりしたりしても放置しがちだが、治りにくい口内炎の陰に、軽視できない「がん」が潜んでいることがある。自己チェックポイントなどを、西洋医学の専門家に聞いた。
「舌は普段は病気についてそれほど心配しなくていい場所だ。ただ、舌には『がん』があることだけは知っておいてほしい」。独立行政法人国立病院機構東京医療センター(東京都目黒区)の大鶴洋歯科口腔(こうくう)外科医長はまず、舌の病変の重さが、がんとそれ以外とで大きく違うことを指摘した。

1−2週で軽く

大鶴医長によると、舌の代表的な病気は口内炎だ。中でも直径2−10ミリの丸く白っぽいかいようが浅くくぼんでできる口内炎は、専門用語でアフタと呼ばれ、しみる。できる原因は完全に解明されておらず予防法もないが、放置しても1−2週間で治ることが多い。再発しやすい場合は「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」という漢方薬を使うことがある。

舌がんの初期症状は、一般的な口内炎との見分けが付かない。舌の側面から下面にかけてかいようができて、食べ物がしみる。ただ、口内炎では、病変と舌の境界がはっきりしているのに対し、がんの場合は境界が不明瞭(めいりょう)であることが見分けのポイントの1つになる。大鶴医長は「口内炎だと思っても2−3週間で治らなければ、がんの可能性が否定できない」と指摘する。

日本では、すべてのがんに占める口腔がんの割合は数%。そのうち半分が舌がんだ。他のがんに比べると発症者の年齢は高いといわれている。たばこやアルコールを多く摂取すると発症するリスクが高まるとされる。

舌がんに移行する可能性があり、前がん病変とされる腫瘍(しゅよう)にも注意が必要だ。このうち白くまだらになった腫瘍が舌から少し盛り上がるか平らにでき、こすっても取れない病気を「白板症」と呼ぶ。白板症自体には痛みはないが、悪性に移行してくると痛みを生じる場合があるので注意が必要だ。舌が赤くただれて食べ物などにしみる「紅板症」も、がん化する可能性がある。

4期あるがんのステージのうち、腫瘍の大きさが2センチメートル以下の1期であれば5年後の生存率は90%あるが、3期、4期の場合だと、首のリンパ節への転移の可能性が高まるなど予後が悪くなることで、同率は下がっていく。

治療法は、初期であれば外科手術で腫瘍を除去する。放射線治療も効きやすい。「舌は柔軟性のある組織なので、初期のがんであれば外科手術をしても、話しにくくなるなどの機能障害は少ない」という。

免疫力低下で発症

ただ、舌の粘膜に病変がないのに、舌がピリピリしたり痛んだり、熱を持ったように感じる症状については「心配いらない」。「舌痛症」と呼ばれ原因不明だが、ホルモン異常のほか、がんに対する恐怖など心因的な可能性が考えられている。

がん以外の代表的な病変をみると、舌だけではなく口の中の粘膜全体に粉ミルクのかすのようなものが付き、ピリピリ痛む「カンジダ症」などがある。口の中にいる「カンジダ・アルビカンス」という菌に、免疫力が落ちている人が感染して発症する。高齢者の患者が多いが「若い人の場合は極論するとエイズウイルス(HIV)感染の疑いもある」。

清潔保つ努力を

舌苔(ぜったい)は、舌の表面にあるヒゲのような組織が伸びて発生する。この組織が長く伸び、黒く着色したものを「黒毛舌」と呼ぶ。喫煙量が多かったり、抗生物質を飲んだりするとかかりやすい。

舌の表面の模様がまだらになる「地図状舌」に対しては「特に治療法はなく、放置しておいてもいい異常もある」との姿勢だ。歯磨きやうがいをしっかりして、日ごろから口の中の清潔を保ち、注意を払うことは大切だ。大鶴医長は「がんにつながるような異常ではないかと疑いを抱いた時は、早めに歯科か耳鼻咽喉科に行ってほしい」と話している。

漢方、舌苔で健康測る

東洋医学では、舌の状態から体調が判断できるとの考えをとり「舌診(ぜっしん)」が広く用いられている。東邦大学医療センター大森病院(東京都大田区)の三浦教授(東洋医学科)によると、人間の内臓は粘膜に覆われていて、舌は口内、唇は外部から見られる数少ない粘膜組織である。

三浦教授が特に注目するのは、舌そのものや舌苔(ぜったい)の色と、生え方の2点。正常な舌はピンク色をしている。舌苔の生え方で舌の表面が見える程度で、白色していることが望ましいという。

舌そのものが赤みを帯びていたり、舌苔が黄色かったりするのは、体に熱がこもった状態だという。風邪などで体温が高い場合だけではなく「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の人にもこの傾向がある」。反対に白っぽくなっている場合は冷え性を示す。

舌苔が厚く密に生えているのは、体に水分がたまっていたり、消化不良だったりするためだ。逆に舌苔が少ないか、もしくは全くない場合は、体が乾燥しているという。

こんな症状に注意

 よくある症状

■直径2〜10ミリの白く丸いくぼみができ、しみる。1〜2週間で自然に治る
  →口内炎(アフタ)

 注意すべき症状

■舌の側面や裏側に腫瘍(しゅよう)ができてしみる。口内炎だと思っていたが、
  2−3週間たっても治らない→舌がんの疑い
■舌に白い斑状の腫瘍ができたり、赤くただれたりする
  →舌がんの「前がん病変」の疑い
■口の粘膜全体に粉ミルクのかすのようなものが付き、ピリピリ痛む
  →「カンジダ症」の疑い

 あまり心配しなくてもよい症状

■舌の粘膜に何も病変がないのに、舌がピリピリ痛んだり、熱を持った感じがする
  →「舌痛症」
■舌の表面の模様がまだらになる→「地図状舌」
■舌の表面に溝ができる→「溝状舌」

(大鶴洋医長の話をもとに作成)

2009.1.11 記事提供 日経新聞社