やはり運動で心肺を鍛えることは重要だ。

高い心拍数は肥満と糖尿病の素因

20年以上前に心拍数が高かった日本人成人は、現在肥満になる傾向が2倍、糖尿病になる傾向が5倍であることが判った

健康被験者を20年間にわたって追跡した研究グループが、調査開始時に心拍数が高かった者は肥満になる傾向が2倍、糖尿病を発現するリスクが5倍大きいことを報告した[1]。重藤由行博士(久留米大学医学部)らによると、この知見は肥満と糖尿病のいずれの発現にも交感神経系が関与していることを意味している。

研究全体において、重藤博士らは心房細動の患者と降圧薬治療を受けている患者を除いた被験者620例を1979年から1999年にかけて追跡した。すると、年齢、性別、その他の交絡因子で補正しても、1979年時点の心拍数が1分間に80回(bpm)以上であったことが、20年後の肥満・インスリン耐性・糖尿病の有意な予測因子であることが判った。

80 bpm以上の心拍数に関連するCVリスク因子の発現

転帰

オッズ比

95%

p

肥満

2.34

1.09 - 5.90

<0.05

糖尿病

5.39

1.34 - 21.8

<0.001

インスリン耐性

2.20

1.04 - 5.07

<0.05


今回の知見は、交感神経系の関与を物語っており、高心拍数の患者が糖尿病になりやすいメカニズムとしては、βアドレナリン受容体が刺激されることで急性インスリン耐性が引き起こされる、βアドレナリン受容体の慢性刺激で速筋のインスリン耐性が増す、血管収縮と骨格筋血流減少で骨格筋へのグルコース取り込みが不十分になる、という少なくとも3つが考えられると著者らは述べている。

予防措置としてβ遮断薬処方で心拍数を遅くするという発想は、β遮断薬が糖尿病の新規発生のリスクを高めることが知られているので、時期尚早であると、重藤博士らは述べている。共著者の足達寿博士(久留米大学医学部)がheartwireに語ったところによると、その他の薬剤なら考慮の可能性がある。「高血圧患者では、シルニジピンやアゼルニジピンといった長期作用型カルシウム拮抗薬を使用することが一般的に勧められている。交感神経系刺激(N型)を抑制し、N型カルシウムチャネルを遮断することで、患者の心拍数が2から3 bpm低下した。これが高心拍数患者に有益だと思われる。」

著者らはさらに、今回の研究には当初から非肥満の者の割合が高く、調査が実施された日本は白人が人口の主体を占める他国に比べて肥満率が低いので、今回の知見の一般化には限界がある可能性があることも指摘している。

心拍数仮説

この研究に対するheartwireへのコメントとして、やはり高心拍数がその後の糖尿病リスクに及ぼす影響について研究しているDr Mercedes Carnethon(ノースウェスタン大学、イリノイ州シカゴ)は、基礎にあるメカニズムとして自律神経系機能の障害が重要であるという考えを自分たちも持っていると語った。

「よく言われるように、交感神経系は『闘争と逃避』に反応するための神経系である。反応するためには身体は血糖という形の素早いエネルギーを必要とする」と博士は説明した。「血糖を貯めておくために、肝臓の糖産生が刺激され、筋のインスリン耐性が強化されることで、血流中の糖が多く保たれる。糖尿病とは血糖値がある値(一般的は126 mg/dL)を超える状態のことなので、高心拍数として現われる交感神経系の長期にわたる過剰活動によって、糖尿病そっくりの状態もしくは糖尿病そのものの発現が引き起こされることは十分に考えられる。しかし、心拍数は交感神経入力のみを反映しているのではなく、ホルモン入力も反映しており、例えば喘息の治療に用いられるβ拮抗薬といった薬剤にも対しても感受性がある。」

重藤博士らの仕事の中でも肥満が関係するとした観察結果は、この種の観察は縦断研究でこれまで行われたことがないので、特に重要であるとCarnethon博士は指摘している。とはいえ、今回の糖尿病の観察結果は、Carnethon博士らが米国人口で報告した内容を強化するものである。

「重藤博士らの業績は、比較的簡単に測定できる心拍数が、危険な代謝疾患を発現するリスクを持つ者の発見に役立つという説をさらに強く支持するエビデンスである。」とCarnethon博士は言う。「しかし、彼らの仕事は我々のものと同様に観察研究であり、彼らの観察に関与する未測定の因子が他にも存在する可能性がある。」

高脂肪食から保護する遺伝子変異に関する研究

これとは別に、『Science』2008年12月12日号に、高脂肪食の心血管系への急性・慢性の影響を減弱させると思われる遺伝子が見つかったという論文が発表された[2]。Dr Toni Pollin(メリーランド州立大学医学部、ボルチモア)らは、全体的に均一な集団(ランカスター・アーミッシュ)からの有志被験者に高脂肪・高カロリーのミルクシェーキを与えた時の血中脂質への影響を調べた。ゲノムワイド関連分析によれば、ランカスター・アーミッシュのうち、アポリポ蛋白C-III(apoC3)をコードする遺伝子に変異がある者がおよそ5%いた。apoC3はトリグリセリドの加水分解を抑制する蛋白質であり、冠動脈疾患の発現に関係すると言われている。Pollin博士らによれば、この特定の変異(R19X)を有する被験者は、空腹時トリグリセリド値が低く、高脂肪ミルクシェーキを摂取した後でも血清トリグリセリド値が低かった。また、高比重リポ蛋白(HDL)値が高く、低比重リポ蛋白値(LDL)が低かった。R19X変異のキャリアは冠動脈石灰化の程度が非キャリアより有意に小さいことも、画像研究で判った。

Pollin博士らの指摘によれば、apoC3の発現量を少なくすることが、フィブラート類が脂質値を下げる間接的メカニズムのひとつと考えられおり、スタチン類、チアゾリジンジオン類、エゼチミブ、ナイアシン、魚油、減量がapoC3値に影響を与えることも知られている。ApoC3を直接標的にするか、この蛋白質をコードする遺伝子を標的にする薬剤が、研究すべき新しい有望な手段であると、博士らは結論で述べている。

この研究は、木村記念循環器財団(福岡)の支援を一部受けている。著者らの開示情報によれば、関連する金銭的利害関係はない。

出典
1. Shigetoh Y, Adachi H, Yamagishi S, et al. Higher heart rate may predispose to obesity and diabetes mellitus: 20-year prospective study in a general population. Am J Hypertens. 2008;DOI:10.1038/ajh.2008.331. http://www.nature.com/ajh/index.htmlで入手可能
2. Pollin TI, Damcott CM, Shen H, et al. A null mutation in human apoC3 confers a favorable plasma lipid profiles and apparent cardioprotection. Science. 2008;322:1702-1705.

2008.12.11記事提供 Medscape