お手軽・長続きが大切

肩や首、背中のしつこい凝り。これは体のゆがみが発する注意信号であることが多い。「運動がいい」と分っていてもなかなか続かないし、マッサージに行く時間もない……。そんな人に朗報なのが日常的な動作で体のゆがみを治す方法。オフィスや家庭でちょっとした合間に治す方法。オフィスや家庭でちょっとした合間にできるので、長続きするのがポイントだ。

ヒールの高い靴が好きなA子さんの悩みは靴のかかとの減り。「なぜか右のかかとの外側が早く減り、左の足は小指の側がすり減る。かかとの修理代もばかにならない」と嘆く。実はこれ、体のゆがみからくる現象のひとつだ。

米国に渡った松坂大輔選手をはじめ国内外で活躍するトップアスリートのトレーナーを務める鴻上寿治さんは、「体のゆがみの大きな原因は骨盤のゆがみ」と力説する。

骨盤は体内の一番大きな骨で上半身を支える土台となる。骨盤は良い姿勢のときは立った状態だが、それが開いて後ろに傾いてくると猫背になり頭も前に出る。

また、長年の姿勢のくせや偏った運動などで片方の骨盤が開いて後傾してくると、左右の骨盤の高さがずれることにより、背骨が即湾し、体がゆがんでくる。

大きな骨より先に小さな骨が悲鳴を上げ、それが肩こりや首のこりとなって表れるわけだ。

脚の組み方で知る
そんな体のゆがみも「自分の骨盤のゆがみがわかれば、ちょっとした日常的な動作で矯正していくことができる」と鴻上さん。「座って無意識に脚を組んだときに下になる脚が骨盤の下がっている方」と見分け方を伝授する。

例えば、骨盤が下がっている側のお尻の下に物を挟んで座るのも1つの手だ。2つ折にした週刊誌あるいは財布でも何でもいい。厚みのある物で落ちている側の骨盤を支えると、骨盤を締め前傾させる効果がある。

もっとも脚の組み方のくせをはっきり判断できない人もいる。そこで、武蔵野身体研究所所長の矢田部英正さんが勧めるのは、自分の姿勢を時折チェックすることだ。

そのポイントは2つ。耳の上と肩の先端を結んだ線が真っすぐになり、また鼻筋とへそを結んだ線が地面に垂直になるよう意識することだ。この2つを意識すれば、頭が前傾せずに自然と背骨の上に真っすぐに乗るようになるという。

「真っすぐかどうかは自分の感覚で判断すればいい。鏡でチェックするとかえって変な個所に力が入ってしまう」

姿勢のチェックに加えてもう1つ、座ったまま簡単にできるものとして矢田部さんが推すのは、骨盤を前後に動かすことだ。後ろに倒れている骨盤を前に起こす。こういった腰の柔軟性を確認する動作を1日に2、3回繰り返すだけで、1カ月もしないうちに体のゆがみはずいぶん修正されるという。「ふとしたときに自分でゆがみに気づいて修正していけば、自立的に体のバランスを整えられるようになる」

クッションを活用
本来、骨盤を立てて良い姿勢で座っていれば、何時間でも疲れない。ところが多くの人が無理に胸を反らせてしまうため、みぞおちや肩が緊張してしまって続かない。このとき、骨盤の上にある弱くて繊細な腰椎(ようつい)に圧が集中するので、腰にも良くない(図下)。「オフィスでも、骨盤を立て上半身の力を抜いて座るよう心がけてほしい」(矢田部さん)

このとき役立つのがクッションだ。高さ20センチほどのクッションを腰に当てて座ると骨盤が立ちやすい。ただし、ウエスト部分まで当たるものは、腰椎に圧を集中させてしまうので避けること。

ところで、骨盤もさることながら、骨盤をと背骨、大腿(だいたい)骨を結ぶ大腰筋も重要だ。腰の奥にあり、上半身と下半身をつなぐ唯一の筋肉で、これが機能しないと骨盤を前傾させることも太ももを上げることもできない。筑波大学大学院助教授でスポーツ医学を専攻する久野譜也さんは、日常の簡単なストレッチで大腰筋をきたえる必要性を説く。

「筋肉は鍛えないと30代から減っていき、50代になると20代のときより30%減少する。それだけに毎日無理なく続けられる方法で筋肉を増やす努力が必要」。大腰筋を鍛えるにはスクワットが効果的。また、いすに腰掛けて片脚ずつ上げ下げする、机の端に手を掛けて体を斜めにした状態でする腕立て伏せなども、「オフィスワークの気分転換にいい」と久野さんは勧める。使っている筋肉を意識しながらゆっくり行うのがコツだ。


体のゆがみを直す

骨盤の前後のゆがみ
×骨盤が後方に傾いた状態   
○骨盤がたっている状態 耳と肩先を結ぶ線が傾かず垂直になるように意識する

骨盤の左右のゆがみ
×左の骨盤が開いて後傾している場合   
○正常な姿
座り方
×反りすぎ…肩や背中に力が入った上半身 
○肩の力が抜け、みぞおちのゆるんだ上半身  骨盤で支えている


2007.3.17 日本経済新聞