先日薬膳の研究会があり、夕食で薬膳のコースがでた。その数日後の感想で「体が熱く、興奮して眠れなかった」という人がでた。当日は寒さが厳しかったので、料理長が気を遣いすぎ、体を温める働きのある温熱性の食品を使い過ぎてしまったからだ。

その夜は食材として羊肉、海老、にんにく、ねぎ、しょうが、強く体を温める働きのある肉桂(にっけい)、とうがらし、さんしょなどが使われていた。

薬膳は季節やその人の体質、その時の症状に合わせて作られるもの。寒いからといっても、食する人には寒証(さむがり)、熱証(あつがり)、その中間の人もいる。寒証の人には温熱性の食品を使うと寒熱のバランスがとれてよいのだが、熱証の人が、温熱性の食品をとりすぎると体の熱が亢進(こうしん)して、先に述べたような症状がでてくる。

中国経典栄養学研究所の劉大器・元所長はこんな経験談を語っている。インポテンツの男性が強壮作用のある温熱性の鹿肉を勧められ、毎日200グラムを2週間とったところ、微熱が出て精神がいらいらし、夜も眠れなくなった。さらに1週間食べ続けたところ、鼻血が出るようになってしまった。この人は熱証で、火に油をそそぐような逆療法をしてしまったのだ。

鹿肉は体を強く温める働きが強いのである。薬膳は、薬物(生薬)や食品の効能だけをたよりにして調理すると、このような失敗もありうるから注意が必要だ。特にその人の持つ、寒熱の体質を知って料理することが薬膳には大切なのである。
(新宿医院院長  新居 裕久)


2007.2.3 日本経済新聞