まず食生活改善神経機能の低下が原因

「睡眠不足でないのに仕事中に居眠りする」「試験中なのに眠ってしまう」「日中の行動の記憶が時々ない」などを訴え、十代、二十代の若者が外来にやってくる。多くが過眠症だ。

居眠りは自分の意志が弱いせいではないか、記憶障害が認知症につながるのではないかと心配していたという。
過眠症についての正しい情報は驚くほど少ない。

ナルコレプシーは世界的に1000〜3000人に1人の割合でみられる過眠症の代表的疾患だ。
夜十分に眠り、朝きちんと目覚めたにもかかわらず、日中に耐え難い眠気が繰り返しおそってきて、居眠りが頻繁に出現する。

さらに、笑ったりびっくりしたりすると身体の力が抜けてしまう情動脱力発作、金縛り症状が頻発する睡眠麻痺、寝入りばなに鮮明な夢が出現する入眠下幻覚がみられる。

ナルコレプシーは睡眠と覚醒を調節する神経機構の働きが低下する病気だが、進行して生命に危険を及ぼすようなことはない。
性格ややる気のなさとは全く関連ない。
一生続くので、社会生活へのダメージを防ぐために早急に治療を開始する必要がある。

眠気の診断には、脳波を用いて眠気を客観化する反復睡眠潜時検査を行うことが必要だ。
判断の難しい軽症例もこれで適切に診断できる。
眠気に対する治療効果をみる上でもとても重要だ。

日中の眠気に対しては、覚醒効果を持つ精神刺激薬を使う。
より安全で副作用の少ない世界的標準治療薬が、2007年、国内でも使えるようになった。
過眠症に悩む人に大きな福音だ。
薬物療法に加えて、休み時間に20分を目安に昼寝するのもよい。

情動脱力発作や睡眠麻痺、入眠時幻覚に対しては、筋の緊張を下げにくくする作用を持つ抗うつ薬が用いられる。

ナルコレプシーが疑われる人は、治療を開始してきちんと対策を立てることが重要だ。
医療サイドは、診断に必須な反復睡眠潜時検査が可能な医療体制を早急に整え、この検査のための保険制度の整備を急ぐべきである。
(日本大学医学部精神医学講座教授 内山 真)


2007.4.8 日本経済新聞