効果は組み合わせ次第
タイプ様々、特徴知って


日本人の死因のトップのがんだが、検診によって早期に発見できれば治る可能性も高くなる。がん検診には地方自治体などが主体となる集団検診から、費用を自己負担しなければならない個人検診まで様々なタイプがある。どのように組み合わせて受診すると効果が期待できるのか、専門家の意見をもとに調べてみた。

がん検診という言葉は知っていても、実際に受けたことがない人も多いだろう。一体、何歳になったら受診を考えたらよいのだろうか。

がんは体のなかの正常な細胞ががん化し次第に増殖して発病する。生活習慣や遺伝にもよるが、年をとるほどがんになる可能性は高くなる。久道茂・東北大学名誉教授は「50歳を超えた人は(がんにならないよう)予防に気をつけていても、受診したほうがよい」と話す。

集団検診が手軽に受けられる。案内は自宅に届くか、市町村などが出す広報誌に載っている。無料か数千円程度の自己負担で済み、1年か2年に1回の頻度で受診できる。なるべくこまめに受けるのがよいだろう。

集団検診で実施するのが胃がん、大腸がん、乳がん、肺がん、子宮頸(けい)部がんの5種類。前立腺がんなどを独自に実施する自治体もある。子宮頚部や乳がんなど20−30代で受けられるものもあるが、40歳以上が対象となることが多い。

がん検診を受けるとどれだけ効果が期待できるのだろうか。有効性を評価する上で重要なポイントが「受診によってどれだけ死亡率が減少するか」。久道名誉教授を中心とする厚生労働省研究班が、過去の様々な調査を分析した評価結果を2001年に公表した。

最も効果があるとされたのが、女性の子宮頚部がんを見つける細胞診。子宮内の粘膜を採取して細胞を調べるもので、受診によってこの病気で死亡する確率が7−8割減る効果が期待できる。胃がんもエックス線検査によって死亡率がおよそ半分になることがわかった。

肺がんも、エックス線検査と痰(たん)の細胞検査を組み合わせると、死亡率を約3割引き下げる効果があるという。欧米では有効性が否定されているが、日本では胸部エックス線検査を長年、結核かどうか調べるのに利用してきたため診断技術が欧米に比べて格段高い。

ただ「診断技術は地域で格差が大きい」と国立がんセンターの祖父江友孝・情報研究部長は指摘する。精度が高いと言われるのは宮城県、岡山県、新潟県などだそうだ。

女性に最も多いがんである乳がんは、乳房をエックス線撮影する「マンモグラフィー」に視触診を組み合わせれば死亡率が半分程度に減少できる。ただ、マンモグラフィーは乳房の乳腺(にゅうせん)組織をがんと見分けるのが難しく、乳腺の発達している40代以下の若い女性では、見落とすことも少なくない。

超音波検査を使うと乳腺組織が多くてもがん組織を見分けやすい。ただ、死亡率の減少効果は実証されていない。

厚労省は2007年度から有効性を検証する6万人規模の調査に乗り出す方針だ。

個人検診だと、検診メニューは集団検診よりも選択の幅が広がる。有効性が十分に分かっていないものも少なくないが「胃や大腸なら内視鏡検診、肺ならヘリカルCT(コンピューターによる断層撮影)がおすすめ」(久道名誉教授)。体内を詳しく観察できるため、集団検診だと見落としてしまう早期のがんも発見できるとされる。

10万−20万円の費用がかかる陽電子放射断層撮影装置(PET)検診は、小さながんでも見つかるとして人気が高い。甲状腺がんや頭頚部がん、悪性リンパ腫などの早期発見に威力を発揮する一方、腎臓や膀胱(ぼうこう)、胃や前立腺などのがんでは見落としが多いこともわかってきた。「PET検診で正常だから安心」と過信するのではなく、ほかの検査と組み合わせて上手に活用したい。
  (本田幸久)


主ながん検診の種類と手順

1)胃がん
エックス線検査
バリウムを飲んでエックス線撮影し、胃の粘膜の異常を調べる。胃潰瘍(かいよう)なども見つかる

内視鏡検査
薬などを飲んだ上で口から内視鏡を差し込み、胃の内部の粘膜などに異常がないかどうかを直接観察する
2)大腸がん
便潜血検査
専用の容器に大便を付けて提出し、血液が混ざってないかどうかを調べる

内視鏡検査
下剤を飲んで大腸の内部を洗浄した後、内視鏡を腸の中に差し込んで異常がないかどうか観察する

エックス線検査
肛門(こうもん)からチューブを挿入してバリウムを入れ、エックス線で大腸の様子を写真撮影する
3)乳がん
マンモグラフィー検査
乳房を片方ずつ板にはさみ、エックス線撮影する。乳房を圧迫するときに痛みを感じることもある

超音波検査
超音波で乳房の異常を調べる。乳腺組織の発達した人などに適しているとされるが、有効性は十分確認されていない
4)肺がん
エックス線検査
エックス線撮影で肺の異常を診る。肺から出る痰(たん)を顕微鏡で調べる「喀痰細胞診」と組み合わせる

胸部ヘリカルCT
寝台に横になって息を止め、コンピューター断層撮影装置(CT)で肺の内部を連続的に撮影する
5)子宮頚部がん
細胞診
子宮内の粘膜を採取し、がん細胞の有無を調べる


2006.8.20 日本経済新聞