PCI治療が主流

虚血性心疾患は、心臓を動かす筋肉(心筋)に血液を送る冠動脈の内壁にコレステロールなどがたまって狭くなることで起きる。心筋が一時的に血液不足(虚血)になる狭心症と、血液の塊(血栓)で完全に詰まり、心筋の細胞が壊死する心筋梗塞があり内科的な治療法と外科的な治療法がある。

症状が軽い場合は、内科的な薬物療法が一般的。「硝酸薬」や「カルシウム拮抗(きっこう)薬」、「β(ベータ)遮断薬」など、状態に合わせて血管を広げる効果のある薬を定期的に服用し、発作を起こさないようにする。狭心症の発作が起きたときは、硝酸薬の1つで即効性のあるニトログリセリンを使う。

根本的な治療法では、血管内にカテーテルを入れて狭くなった冠動脈を広げる経皮的冠動脈形成術(PCI)が中心だ。1977年に海外で初めて実施され、当初はカテーテルに付けた風船を狭くなった部分で膨らませて血管を広げる「バルーン療法」だった。

治療から時間がたつと、再び血管が狭くなる再狭窄が3−5割で起きる問題があり、国内で93年に血管内に入れるステントが承認され、90年代後半以降は「ステント留置法」が主流となった。急性心筋梗塞の場合も、できるだけ早く血液の流れを再開できる内科的な治療法が中心となっている。

一方、外科的な治療は、狭くなったり詰まったりした部分の先に迂回(うかい)路となる新しい血管をつなぐ冠動脈バイパス手術。手術後に狭くなった部分が詰まっても、心筋は迂回路から血液が確保できるので心筋梗塞に陥らずに済む。

内科的治療と外科的治療がほぼ同じ割合とされる米国と異なり、日本ではバイパス手術の年間約2万件に対し、PCI治療が約16万件に達し、内科的治療の多さが際立つ。

特に04年8月に保険適用された薬剤溶出ステントの登場で、外科に回っていた患者を内科で治療するケースが急増している。

狭くなったり詰まっている部分が1、2ヵ所ならPCIを行なうケースが多く、治療する血管が多い場合や造影剤の影響を受ける腎臓の機能が悪いなど、PCIが適当でない患者を外科に紹介するケースが目立つ。

 



(1)2つの虚血性心疾患の違い

 
狭心症
心筋梗塞
症状など ・胸の痛みや圧迫感、息苦しさなど
・数分〜10分程度で回復
・ニトログリセリンが効く
・突然の激しい胸痛
・安静にしても回復しない
・ニトログリセリンが効かない
診断・検査 ・問診、心電図
・冠動脈造影
・心筋シンチグラフィ
・心電図、心エコー
・血液 冠動脈造影
病気の状態 ・冠動脈が狭窄
・心筋が一時的に血液不足に
・冠動脈が閉塞
・心筋が壊死

(2)PCIの流れ

バルーン療法
バルーンのついたカテヘテルを狭窄部分に送り込む
バルーンを膨らませ狭窄部分を広げる
ステント留置療法
ステントをかぶせたカテーテルを狭窄部分に送り込む
バルーンを膨らませ狭窄部分を広げる
ステントを残してカテーテルを抜く

(注)(1)(2)とも「病気がみえる循環器疾患」(メディックメディア社刊)をもとに作成


2005.12.25 日本経済新聞