炭水化物で脳活性化
後の食事考え程々に

残業するとき、何をいつどのくらい食べるか、思案のしどころだ。空腹のままエネルギー切れを起こしてはかなわない。だが、食べ過ぎると頭の回転が鈍るうえ、その後に夕食を取ることを考えると健康上も問題だ。効率的な軽食術は。

コダック(東京・中央)社長室の矢畑彰則さん(48)はオフィス机の引き出しに食べ物を常備している。菓子類やチョコレート、カップラーメンなどなど。残業に備えていつの間にか身に付いた習慣だ。

残業は週に3−4日。米国本社と直接連絡するために急に残業が入ることもある。夜10時以降まで仕事がかかりそうならば弁当を買ってくるなどしっかり食べる。そこまで遅くならないときは、職場で軽食をつまみ、小腹を満たす。「菓子類は少量ずつ包装してあるものを選ぶ。大きな袋の菓子は一度、あけるとつい全部食べてしまい、太ってしまう」と話す。

昼食後、何も食べないまま残業するのは好ましくないという。女子栄養大学生涯学習講師で管理栄養士の白野浩子さんは「昼食後、6時間もすればエネルギーは尽きる。空腹では仕事の効率も上がらない。正午過ぎに昼食を食べたとして、18時から19時の間に何か食べることが望ましい」と助言する。

ただやみくもに食べればよいわけではない。仕事の効率を上げるには、何を食べればよいのだろう。

うどんなど適す

「デスクワークが主だったら、残業前はうどんなど炭水化物の多い食事がお勧め」。全国500カ所の事業所で社員食堂を委託運営している、エームサービス(東京・港)BDS業績管理室の早川義人さんは話す。同社では、残業を控えた夕方には食べ過ぎない適度な量で消化に良いものを準備している。

早川さんは「デスクワークに必要なのは脳を働かせるブドウ糖。仕事の効率を上げるにはブドウ糖の元となる炭水化物を取ること。短時間で食べることができるのでうどんなどめん類は夕方の社員食堂でニーズが高い」と説明する。

オフィス街のコンビニエンスストアは夕方以降、残業食を求める人たちで混雑する。おにぎりやパンの人気は根強いが、最近は栄養バランスに配慮したエネルギー補給商品も増えている。書類整理やパソコンを操作しながらオフィスの自席で手軽に食べられるので残業時に便利だ。

コンビニで補給
例えばゼリー飲料の「ウイダーイン」(森永製菓)。1袋(180グラム)の熱量は180キロカロリーで、およそおにぎり1個分に相当する。一般的な活動に換算し、約2時間分のエネルギーになるという。小腹を満たしたい女性に人気なのは通称「白ビスコ」といわれる「ビスコ小麦胚芽(はいが)入りクリームサンドクラッカー」。軽い塩味のクラッカーにクリームを挟んだのが特徴。適度に甘く、あっさりした大人向けの味。1袋(21.6グラム)107キロカロリーでちょっとしたエネルギー補給に最適だ。

健康上、何を食べるか配慮も欲しい。就業後に自宅などで夕食を別に取るのなら重いものを残業に備えて食べてしまうとカロリーオーバーとなり、肥満や生活習慣病の原因となる。

対策として女子栄養大学の白野さんは「分食」を提唱。残業に備えて何かを食べるなら、それとその後の夕食を1回分の食事ととらえて栄養やカロリーを調整するのだ。「例えば残業前におにぎりを食べたなら、夕食はご飯抜きでおかずのみ。逆に夕方にカツ丼を食べたなら、就業後には煮物やおひたしなどで済ませる」

残業が多い人は栄養バランスが偏るなど不健康な食生活に陥りがちだ。就寝の3時間前までには夕食を済ませておくことが望ましい。深夜零時に寝るとして、午後9時には終えておく必要がある。白野さんは「もし残業が長引き、帰宅が午後9時以降になりそうならば残業に備えて夕方に何か食べるより、午後7時くらいに夕食を食べる方が健康には良い」と助言する。


残業に備える軽食の注意点

◎炭水化物が有効
脳の活性化にはブドウ糖が必要。そのためにおにぎりやうどんなど炭水化物を取る。納豆、卵、おひたしなどビタミンB群を一緒に取ると効率的に炭水化物をエネルギーに変えられる

◎食べ過ぎ注意
身の回りに食べ物を置いておくとつい食べ過ぎる。自席での“ながら残業”は避ける。1日に食べる量はあらかじめ決めておく

◎分食の勧め
残業時の軽食とその後の夕食を考えて、カロリーと栄養素を計算する

◎昼食で対処
ちょっとした残業なら、夕方に軽食を取るよりも、昼食をいつもよりたっぷりめに食べて備えておく方が健康的

◎腹持ちの良いもの
同じカロリーなら腹持ちの良いものを。この点からもおにぎりがいい

◎18時から19時の間に
昼食後、6時間くらいでエネルギーは切れる。食べることで体内の代謝も高まり、脳も活性化する

◎栄養補助食品に頼りすぎない
常備しやすく、手際よくエネルギー補給できるが、毎日栄養補助食では不健康。残業が常態化しているなら、食生活全体の見直しを

(注)女子栄養大学・白野浩子さんの話から作成


2005.11.12 日本経済新聞