先人の知恵、効果あり

年の瀬は仕事や会合に追われ、体調を崩しがちだ。「風邪をひいたかな」と思った時に、こじらせないためにどんな工夫をしているか、全国の男女千人に聞いてみると「お茶でうがいをする」が1位となった。

日本茶や紅茶には抗菌、免疫活性作用があるとされる「カテキン」を含んでいる。うがい薬代わりに利用すると「のどの痛みが軽くなる」(北海道の30代女性)という声が多かった。いつでもどこでも簡単に実践できるのがいい。

家庭でできる両方に詳しい富山県国際伝統医学センターの上馬場和夫氏(医師・医学博士)は「うがいに使うお茶はよく温めて」と助言する。のどを温めると、局所の白血球の動きが活発になり、ウイルスへの抵抗力が高まるという。

2位の「ショウガ湯」と4位の「くず湯」も風邪のひき始めの一服に適している。ショウガは発汗を促して熱を下げ、血行や消化を促進する「ジンジェロール」を含み、古くから洋の東西を問わず民間薬として重宝されてきた。くずは漢方の風邪薬「葛根湯(かっこんとう)」の成分の1つで解熱作用がある。

3位の「卵酒」と9位の「ホットワイン」はともに血行促進を図るための知恵。アルコールには血液の循環をよくし、眠気を誘う効果がある。アルコールを飛ばしすぎないよう電子レンジか、湯せんで温めるのがコツだ。飲み過ぎると体を冷やし、逆効果。一杯が適量だそうだ。

5位の「鼻うがい」は鼻の奥がヒリヒリと痛むことがあるので、慣れない人は抵抗があるかもしれない。しかし、上馬場氏が進める急須を用いた方法なら、楽にできそう。顔を真横に傾け、上側の鼻の穴に急須の先を差し込んで注ぐ。こうすると、鼻腔(びくう)の奥まで食塩水が進入せず、あまり痛くない。習慣づければ鼻の粘膜が鍛えられ、風邪予防にも効果があるという。

10位以内に入った対処法はいずれも風邪の初期症状に対する一定の効果が医学的に認められている。古くからの知恵にはそれなりの根拠がある。ただ上馬場氏は「プラセボ効果」も見逃せない」と話す。

薬と偽ってプラセボ=英語で擬似薬のこと=を投与しても、患者本人が「本物」と思い込めば、体の免疫力が高まり実際に病気が治ったり、症状が改善したりするケースがある。現代医学でも広く認められた効果で、要は「病は気から」。家庭の療法の"効き目"も、気の持ちようで変わってくるのかもしれない。

もちろん、どんな療法も過信は禁物だ。素人判断は危ない。「38度以上の高熱が24時間以上続いたら、すぐに病院へ」と上馬場氏は言う。

日ごろの備えも大事だ。1925年の発刊以来、総発行部数が千万部を超える家庭医学書のベストセラー「赤本」こと『家庭に於(お)ける実際的看護の秘訣(秘訣)』の著書で民間療法の権威、築田多吉氏は日ごろから抵抗力を強める努力を、と呼び掛けた。自身も86歳で天寿を全うするまで冷水摩擦や亀の子タワシ摩擦で日々皮膚を鍛えていたという。

まずはインフルエンザや肺炎の予防接種を受けたり「栄養」「休養」「運動」の3点に気を配ったりと、予防の意識を高めたい。

 
風邪のひき始め これで対処

1
お茶でうがいをする 867
できるだけ濃くいれた熱いお茶で念入りに。ペットボトル入りのお茶でも温めればOK
2
ショウガ湯を飲む 860
熱いお湯にショウガのおろし汁をできるだけたくさん入れる。ハチミツとレモンを加えると辛さが和らぐ
3
卵酒を飲む 661
卵の黄身を入れたコップに、熱した日本酒か焼酎を注ぎながらよく混ぜる。ハチミツを加えても良い
4
くず湯を飲む  463
くずだけよりも、ショウガのおろし汁やハチミツを加えた方が効果あり
5
薄い食塩水で鼻のうがいをする  384
38〜40度に温めた100ccの水に1グラムの天然塩を入れてよく混ぜ、鼻腔(びくう)を洗う
6
寝るときにマスクをつける  368
のどの乾燥を防ぐ。ガーゼをお湯でぬらしたり、ユーカリなどの精油を含ませても良い
7
梅干しを熱いお茶に入れて飲む  281
できるだけ酸っぱくて果肉の多いものを、熱くて濃いお茶に入れる
8
キンカン湯を飲む  189
キンカンの絞り汁に熱いお湯を注ぐ。ハチミツやショウガを入れると効果アップ
9
ホットワインを飲む  100
電子レンジか湯せんで温めたワイン1杯に、シナモン小さじ1/2杯とハチミツ小さじ1杯を加える
10
刻んだ白ネギ入りのスープかみそ汁を飲む 156
白ネギには発汗作用や消化促進作用、鎮静作用がある。「白ネギの湿布」の回答も多数

調査の方法
調査会社のインタースコープ(東京・目黒)を通じ、全国の20歳以上の男女に対し、12月上旬にネットで実施。専門家の意見をもとに風邪の民間療法35項目を挙げ、効果が高いとおもう順に3つ選んでもらった。1位3点、2位2点、3位1点として集計。有効回答数は千人。
2004.12.25 日本経済新聞