いまどきの
医療・健康法
虫歯を防いで、歯を丈夫で健康にするデンタルガム市場が拡大している。新しいタイプの虫歯予防食品素材も開発され、市場拡大に拍車をかけている。デンタルガムで虫歯は本当に予防できるのだろうか。その実力を検証し、どうすれば虫歯をなくせるかを探る。

江崎グリコが03年、関東周辺から発売を始め、04年から全国展開を行っているデンタルガム「ポスカム」シリーズは厚生労働省から「歯を丈夫で健康にする」特定保健用食品(トクホ)の許可を受けている。「新素材の効果が一般に浸透してきて、順調な売れ行きです。年間販売目標の100億円は確実な勢いです。少子化でお菓子が低迷しているなか、オーラル・ケアへの関心が高まり、デンタルガムは着実に伸びている商品です」(江崎グリコ広報部)

新素材というのは、リン酸化オリゴ糖カルシウム(Pos-Ca=ポスカ)で、江崎グリコ生物化学研究所がジャガイモでんぷんを材料に開発した。ポスカには次のような機能があり、虫歯を予防する力を発揮する。

虫歯の原因となるミュータンス連鎖球菌など細菌の塊である歯垢内のPH(ペーハー)をすばやく酸性から中性に近づけ、リン酸とカルシウムが歯から溶け出すのを防ぐ(脱灰抑制)。また、唾液に含まれるリン酸とカルシウムを歯の表面を覆っているエナメル質に近い比率にすることで、虫歯になりかけの歯を修復する(再石灰化)。

再石灰化はヒトの臨床実験でも確認されている。健康な男女6人ずつの計12人を3群に分け、ポスカ入りガム、ポスカが入っていないシュガーレスガム、ショ糖入れのガムを1日4回、1回20分かんでもらった。二重盲検で試験し、1、2、4週目の再石灰化率をみたところ、ポスカ入りが54〜76%、ノンポスカは12〜23%でショ糖入りは4週目には脱灰が進んでいた。このヒトの臨床実験が認められ、トクホの許可を得た。

キシリトールの効果  他の同糖類と同じ

ここで簡単に虫歯のメカニズムを説明しよう。虫歯の原因菌はミュータンス連鎖球菌だが、この菌も含めて口の中にはたくさんの細菌がおり、それが歯の表面で繁殖する。ミュータンス連鎖球菌は砂糖を餌として唾液などには溶けないネバネバしたグルカンという物質を作り歯に密着する。このグルカンをベースに細菌がさらに増殖して歯垢を形成していく。歯垢内は酸欠状態になっており、この状態で砂糖があると、ミュータンス連鎖球菌は強い酸を産生する。この酸が歯の表面のエナメル質を溶かし、初期の虫歯となる。さらに、進行するとセメント質までを溶かし始め、神経まで達すると痛みが生じてくる。

ポスカムのようにトクホに指定されているデンタルガムはロッテのキシリトール・ガム、キャドバリー・ジャパンのリカルデントがあるが、それぞれ再石灰化を促進する物質は違っている。ロッテは糖アルコール、フクロノリ抽出物から作ったフラノンとリン酸−水素カルシウム、キャドバリー・ジャパンは乳たんぱくから作ったCPP−ACPだ。いずれもヒトの臨床実験で再石灰化が認められている。

読者の中には「『虫歯を予防する』キシリトールはどうなっているの?」と、疑問に感じておられるのではないだろうか。

甘味料のキシリトールはフィンランドで開発され、日本では1997年に食品添加物として認められた。「虫歯にならない甘味料」として、98年からガムに利用され、デンタルガム市場を形成した。当初は380億円の市場規模だったが、現在では700億円になっている。

「キシリトールは砂糖と同じ程度の甘さがあり、口腔内を虫歯になりにくい環境にするのはすばらしい。でも、キシリトールだけが優れているのではありません」と、指摘するのは東北大学歯学部の山田正名誉教授。

キシリトールは糖アルコールと呼ばれる物質の1つ。糖アルコールにはソルビトール、マルチトール、エリスリトールなどがあり、甘味は砂糖の半分くらいだが、虫歯予防効果に関しては、キシリトールと同じように歯垢内の酸産生の抑制作用が認められている。しかし、キシリトールだけがあまりにも有名になっている。

山田名誉教授によると、キシリトールは他の糖アルコールより酸産生の抑制効果が格段に優れたようにPRされているが、その実験方法が間違っているという。その実験方法は歯垢を集めて試験管内で酸の産生を調べているが、この実験方法だと「酸素のない歯垢内」の状態にはならない。本当に酸欠状態で比較すると、酸の産生抑制効果はどの糖アルコールでも同じになる(グラフ参照)。そのために、米国の食品医薬品局は96年に酸産生抑制効果はどの糖アルコールも同じとしている。

唾液分泌の促進が再石灰化のサポート

また、キシリトールにはミュータンス連鎖球菌の増殖を抑制したり、再石灰化を促進したりする機能があるとされるが、これらに関しても否定的な報告が相次いでいる。ある歯科医は、「キシリトールは非常に巨額の宣伝費をかけています。その成果で"キシリトール神話"ともいえるものができてしまったのです」と、解説してくれた。

糖アルコールとポスカなど再石灰化促進機能のある成分を含むガムを食べていれば、虫歯を予防できるのだろうか。「砂糖をとらないことが虫歯にならない極意です」
と、断じるのは大阪大学大学院歯学研究科小児歯科講座の大嶋隆教授。

大嶋教授によると、虫歯の原因がミュータンス連鎖球菌で、砂糖をできるだけとらずに、フッ素を塗布し、歯磨きをきちんとすれば予防できることは60年代からわかっているという。そして、「特に3歳まで砂糖を食べさせないで、虫歯を作らなければ、その後も虫歯になりにくくなります」と、アドバイスする。砂糖を食べないといっても、間食(おやつ)による摂取で、3度の食事での砂糖はそれほど虫歯の原因にならない。

「虫歯治療にくる子どもの食生活を調べていると、3色をきちんと食べておらず、頻繁に間食をしている子どもに虫歯が多くなっています。砂糖を含んだおやつのだらだら食べが虫歯を作るのには最適な環境です」(大嶋教授)

フッ素塗布は歯を酸から守る効果がある。歯が生えたり、生え変わったりする1、2、3、6、7、12歳で塗布するのが効果的だ。

デンタルガムの効果について、大嶋教授は、「かむことで、唾液の分泌がよくなり、再石灰化が進むというメカニズムが主だと考えています」とし、高齢化社会になり、高齢者の虫歯が問題になりつつある状況で、「唾液の分泌が悪くなったお年寄りにデンタルガムは有効ではないでしょうか」と、話す。

大嶋教授はミュータンス連鎖球菌を殺し、歯垢ができるのを抑制するポリフェノールをウーロン茶とカカオ豆の殻成分から見つけている。
「カフェインを除いたウーロン茶があれば、寝る間に飲むことで虫歯予防に効果があると思うのですが」(大嶋教授)

簡単に虫歯予防ができる物質はやはり求められている。

渡辺 勉

2005.1.9 サンデー毎日