太っている人は「座るとベルトがきつくなる」経験をしたことが多いと思う。立っている時には平らになっていたおなかの脂肪が座ることで重なり、前の方に突き出してしまうからだ。

支えになる腹筋が弱く、おなかが前へ前へと出てしまうと腰痛の原因となる。長期にわたり前への力がかかることで、背骨は腹側に湾曲。背中の筋肉が硬くなったり、背骨を通 る神経や関節にダメージを与えてしまい痛みとなる。

そこで、腰痛のための水中運動では、まず水に浮くことから始める=写 真。ふだん使用している筋肉をリラックスさせる目的だ。手や足は沈みやすいので手首や足首に浮き具をつけることで水面 と平行に浮くことができる。リラックスできれば肩や背中の筋肉などの負担が減少し、こりをほぐすのに効果 的だ。

続いてゆっくりと立ち上がり、腕や足などの筋肉を伸ばすストレッチングをする。水の中では重力の影響が小さく、陸上のように伸ばそうとする筋肉を支える力がかからないので、効果 が大きい。

次に、腹筋やおしりの周りの筋肉を鍛える目的でゆっくり歩いたりする。浮き具を足につければ、ももを挙げるときに浮力を使えるので、腰痛の人には好都合だ。

また、腕や足を片方ずつ、腕や股関節を軸にしてからだの前面 で振り子のように左右に振る運動をすると、関節の固定に重要な役割を果 たしている小さな筋肉群を鍛えられる。これで関節の位置が正常になり、体の左右のずれを是正できる。この運動は負荷を一定に保つことができて安全である。

私は慢性的な腰痛を抱える中高年を対象に、週2回・40分間程度、このような水中運動を実施した。すると3カ月後には柔軟性が増し、足の左右と前後の筋力バランスが整ってきた。6カ月後には体脂肪率の減少に伴い、腰痛の症状も改善に向かった。腰痛には、泳ぐより水の中でリラックスし、ストレッチをするほうが良いといえる。 (国士館大学講師・医学博士   須藤 明治)

(2000.7.1日本経済新聞)