てんかん患者の悲惨な実態「てんかんは2年以内に見極めを
2剤併用を2年続けて発作あるなら専門施設へ 」


てんかんは2年以内に見極めを 2剤併用を2年続けて発作あるなら専門施設へ

 東北大学大学院医学系研究科てんかん学分野教授の中里信和氏は4月2日、グラクソ・スミスクライン株式会社主催の「第1回てんかんセミナー」で講演した。「本来なら働き盛りであるはずの人々が、てんかん発作があるために社会貢献できていない。中には、みかけの難治患者」が少なくないと指摘し、「いたずらに薬物治療に拘泥せず、適切な2剤で2年程度調整しても発作がゼロにならない場合は、包括的なてんかん診療を行えるセンターに患者を紹介すべき」と、確定診断なく外来で漫然と診療を続けることへの警告を発した。

難治患者10人中3人は「非てんかん」

 中里氏は「多くの医療関係者はてんかんを治療困難な疾患と誤解しており、治るはずの人が『みかけの難治』になっている」と指摘する。てんかん疑いの段階で治療を開始したり、発作型や病型を検討せず、無効な薬物治療を漫然と続けたり、発作が年1回程度に抑えられれば合格点とするような診療は、患者の人生を大きく損なう可能性があるという。

 その根本原因の一つとして中里氏が挙げるのは、「ビデオ脳波モニタリング検査」が日本でほとんど実施されていないことだ。この検査は、入院の上、4日間継続してビデオ撮影と脳波記録を行う。てんかん発作が起きた瞬間の脳波を確認することで、確実な診断が可能になる。意識を失わない自覚症状だけの発作、無意識行動をとる発作、一瞬の体のピクつき発作、大暴れする発作など、てんかん発作は多彩であり、加えて非てんかん性発作にも多くの種類があるため、神経専門医であっても外来診察のみで正しく診断するのは難しい。実際に中里氏が「てんかん患者」をビデオ脳波で検査すると、10人中3人はてんかんではない別の病気で、4人は病型に合った薬を変えるだけで改善、1-2人は手術の良い適応であることが判明するという。

 中里氏によると、ビデオ脳波モニタリング検査は、欧米のみならず韓国や台湾では広く普及している。一方、日本ではこの検査の診療報酬が著しく低く、実施できる施設は極めて限られているのが実情だ。中里氏は2014年度診療報酬改定の際、この検査で確実な診断を行えば患者の社会復帰につながり、検査費用を十分ペイできると訴えて厚生労働省と交渉したが、今改定には反映されなかった。

2年で発作ゼロにならなければ紹介を

 てんかんは全年齢で有病率が約1%、日本には約100万人の患者がいると推定されている。うち、日本てんかん学会の会員がカバーできる患者は2割程度と言われているため、プライマリ・ケア医や神経専門医など非てんかん専門医も診療に当たらざるを得ない状況だ。

 中里氏は「いたずらに薬物治療に拘泥せず、適切な2剤で2年程度調整しても発作がゼロにならない場合は、包括的てんかんセンターに患者を紹介すべき」と強調する。その背景には、発作型や病型を考慮せずに医師の使いなれた薬を投与している例や、本当はてんかんではない患者を漫然と治療している例が少なくないことがある。「『脳波が読める』と思っている医師が病歴聴取が甘かったり、発作モニタリングを軽視しがちで、かえって危ない。外来での脳波検査では判断がつかなくて当たり前。脳波が正常でもてんかんを否定できない。」(中里氏)。正しい診療の要は、細部にわたる長時間の問診とビデオ脳波モニタリング検査による確定診断。「医師は自分を『ベストのてんかん診療医』と考えてはいけない。たとえ、てんかん専門医であっても、2年で発作が完全にゼロにできないなら別の医師に紹介してほしい」と中里氏は訴えている。

てんかん患者の悲惨な実態

 グラクソ・スミスクラインは2014年1-2月にインターネットで患者意識調査を実施した。対象は、働き盛り世代の実態を調べるため、20-40歳代を中心に、てんかん治療を定期的に受けている成人患者300人だ。うち7割強は2年以上発作を起こしていない患者だったが、5割弱が「いつ発作があるか分からず不安」で、眠気、意欲減退、身体のだるさといった薬の副作用で困っていると回答した。中里氏は「このような副作用は古い薬に多い。眠気以外にも動脈硬化のリスクを上げたり、妊娠に影響を及ぼす場合もある。ガイドラインでは古い薬を推奨しているが、最初から副作用の少ない新薬を使うという選択肢もあっていい」と述べた。

 特に「2剤併用でも2年間で発作を起こしたことがある」難治例では、14.8%の患者しかビデオ脳波モニタリング検査を受けておらず、半数程度が公的支援制度やてんかん診療ネットワークの存在を知らないという結果が出た。中里氏は「悲惨な実態が明らかになった」とコメントしている。

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てんかん診療ネットワーク

2014年4月8日 提供:m3.com編集部