感染症:ステルス型、検出困難「薬効かぬ菌」西日本で拡大か


検出困難「薬効かぬ菌」西日本で拡大か 大阪の院内感染

 国立病院機構大阪医療センター(大阪市)で少なくとも患者2人が死亡した大規模な院内感染の原因になった新型耐性菌「CRE」は、通常の検査では検出困難な「ステルス型」と呼ばれる種類だと分かった。5年前に広島県で初めて見つかった新しい型で、治療が手遅れになりやすい特性がある。複数の専門家が「日本で生まれたと見られるCREが、西日本に広がりつつある」と警告する。

 一般的なCREは、切り札的な抗菌薬であるカルバペネムが効かない。それに加え、ステルス型は実際にはカルバペネムが効かないのに、通常の検査法では「効く」という誤った結果が出る特異性がある。このため、検出しにくいだけでなく、医師が検査結果を信じてカルバペネムを治療に使い、手遅れになる恐れも強い。

 広島大の鹿山鎮男(しずお)助教らは、2009年に初めて広島県内の複数の病院からステルス型CREを5株見つけ、その後、兵庫県の病院からも8株見つけた。検出数は年々増え、12年10月までに2県で計87株にのぼる。その間にこの菌による死者が少なくとも1人出た。鹿山助教らが詳しく調べると、ほぼ全ての菌で、リング状の細胞内物質「プラスミド」が同一だった。

 プラスミドは、菌から菌へ遺伝子を受け渡す「運び屋」だ。CREの遺伝子もプラスミドで運ばれる。

 大阪医療センターで院内感染を起こしたCREの遺伝子を分析している関東地方の大学によると、これまでに解析した約60株から見つかったプラスミドはすべて、広島や兵庫の菌と同じタイプだった。分析を担当した教授は「このタイプのプラスミドが西日本に広がっていると考えられる」と指摘する。

 海外での報告例はほとんどなく、欧米のCREが持つプラスミドは、タイプがまったく異なる。これまで日本ではCREは海外からの持ち込み例にだけ注目が集まっていたが、今回の院内感染で国産CREが気付かれないまま広がっていることが明らかになった。

CREは腸内に長期間とどまるため、いったん広がると駆逐は困難だ。その上、発熱などの症状が出ると治療法がほとんどない。大阪医療センターの院内感染でも3年間で約110人が感染し、少なくとも2人が敗血症を起こし死亡した。いち早く見つけ、手洗いや個室入院など院内感染対策を徹底して封じ込めるしか手はない。

 国立感染症研究所細菌第二部の柴山恵吾部長は「国内の実態把握と、検査法の開発・普及が急務だ」と話す。厚生労働省は年内にも、感染症法を改正してCRE患者の全数報告を義務化する準備を始める方針。(中村通子)

 〈新型耐性菌「CRE」〉 「カルバペネム耐性腸内細菌科の菌」を意味する英語の頭文字。もとはありふれた肺炎桿(かん)菌や大腸菌だが、特定の遺伝子を獲得すると、カルバペネムをはじめとするほとんどの抗菌薬が効かないCREに変わる。今回のステルス型は、複数の耐性遺伝子を組み合わせて持つことなどで「一見、薬が効くように見えるが、実はほとんど効かない」というたちの悪い性質を得たとみられている。

2014年3月31日 提供:朝日新聞