ガン:陽子線使い乳がん治療 福井県立病院、臨床研究実施へ
成功すれば世界初


ガン:陽子線使い乳がん治療 福井県立病院、臨床研究実施へ
成功すれば世界初

県立病院陽子線がん治療センター(福井市四ツ井)は2014年度から、放射線の一種の陽子線を使った乳がん治療の実用化を目指し、早期の患者を対象とした臨床研究に乗り出す。陽子線はがんの病巣だけを狙って照射して組織を壊すことができ、肺や肝臓のがんで治療が行われているが乳がんは未実施。実用化されれば乳房を切らずに温存して治療できるようになるため、体への負担が軽くなる利点がある。成功すれば世界で初めてという。

県は臨床研究の実施費用として来年度予算案に約3500万円を計上した。

同センターによると、陽子線がん治療は患部に狙いを定める必要があるため、肝がんや肺がんなど病巣の位置が固定され動かないがんが対象とされてきた。乳がんは外科手術によって高い割合で治療が可能だが、乳房にメスを入れることに抵抗も多いため陽子線治療が期待される。しかし乳房は形が変わりやすいため患部の固定が難しく、治療に不向きと言われてきた。

この点を克服しようと同センターは、治療中に乳房が動かないようにする器具を作れないかと考えた。大手下着メーカーに製作を打診し、ブラジャー型の固定器具の開発に成功。開発に2年を要したが、臨床研究実施への道が開けた。

治療の副作用については、動物実験は実施していないが、患部へ確実に陽子線を照射できることをコンピューターシミュレーションで確認。他のがんで治療法として確立されていることから、問題のないレベルという。

臨床研究は18人程度の早期乳がん患者を対象に実施し、安全性と治療効果の有無を確かめる。今後研究計画書を作成して外部の有識者からも意見を聞き、院内の倫理委員会に諮る。承認されれば臨床研究に参加してもらえる患者の募集を始め、2年後をめどに治療技術の確立を目指す。

県立病院の山本和高・陽子線がん治療センター長(62)は「手術と同じくらい高い治療効果が得られるよう手法を確立させ、広めることができたらうれしい。将来的には乳房の除去が必要なレベルの乳がんでも切除せずに治せる可能性もある」と話している。【山衛守剛】

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■ことば

◇陽子線治療

水素の原子核「陽子」を加速して得られる「陽子線」をがんに照射し、陽子線のエネルギーでがん組織を壊す治療法。現在、国内の治療施設は県立病院を含め8カ所。治療は公的医療保険の対象ではないため費用は患者の全額負担で200万円以上かかるが、これ以外に必要となる検査や投薬などには保険が適用される厚生労働省の「先進医療」に認定されている。従来の放射線治療と比べてがんに狙いを定めて照射できるため正常な部位の損傷が少なく、体への負担が小さい。


2014年3月5日 提供:毎日新聞社