女性を観たら 妊娠と思え2 
一生に1回は「異所性妊娠」【研修最前線】

  

東京医科歯科大学

「産科・婦人科の救急」
Vol.1◆婦人科手術、3割弱は緊急症例 Vol.2◆一生に1回は「異所性妊娠」 Vol.3◆忘れがち「女を診たら妊娠」(11月11日公開予定) Vol.4◆性交渉「さらっと聞くべし」(11月13日公開予定) Vol.5◆中学生、おばちゃんも油断禁物(11月15日公開予定) Vol.6◆奥さん一人で初めて(11月18日公開予定)

産婦人科の救急外来の要点。「女を診たら妊娠」は要注意。
忘れがちだが、内科でも外科でも見逃すと患者の命に関わる。
周産・女性診療科の須藤乃里子氏が解説する。
まとめ:星良孝(m3.com編集部)

大抵の医者の顔色が変わる

講師は、周産・女性診療科の須藤乃里子氏

須藤 では、早速、症例にいきます。症例1を見てください。

34歳、0回経産婦で、主訴は右の下腹部痛です。最後の月経が1月2日から6日ですが、この患者には月経不順があります。月経が遅れているので、自分で2月11日に市販の妊娠反応薬で調べたところ、これは陰性でした。その後、2月13日から生理のような出血があった。しかし、その後も少量の出血が断続的にあり、3月4日に下腹部痛も出てきたので、近くの産婦人科を受診しました。このとき、産婦人科では排卵期出血だろうと診断され、止血剤を処方されて帰宅となっています。翌日、3月5日の午前11時に激烈な右下腹部痛のため、本学救急科に搬送されてきました。

身体所見では、体温は36度3分、血圧が104/66oHg、脈拍が82bmp、sPO2は99%。患者は上腹部まで腹部全体に痛みがあると訴えました。腹部は、平坦で軟、また、右下腹部に圧痛と反張痛がありました。

では、まず何を検査したらいいでしょうか。とりあえず採血はされていて、検査所見はスライドの通りです。

絶対に忘れてはいけないのがhCGの定性です。とにかく「女を診たら妊娠と思え」と、いうことです。これは昔から言われていることですが、結構忘れがちです。この方の場合は、hCGの定性が陽性でした。お腹がかなり痛くてhCGの定性が陽性。これでもう大抵の医者の顔色が変わります。

hCGとはどういうものか、こちらのスライドに示します。尿中のhCG定性では、25単位から陽性になるものが使用されます。妊娠のどのくらいの時期に25単位が陽性になるかと言うと、妊娠3週の後半からです。つまり、次の生理がくる前にもう陽性になるわけですね。5週0日では100%陽性になります。というわけで、これは緊急手術になるケースなので、必ずチェックしてほしいものです。

異所性妊娠の出血

須藤 CTは必ずしも撮影する必要はありませんが、この症例では、たまたま撮影していたので、お見せします。通常は超音波検査で十分です。参考までに本症例のCTを見てください。どうでしょうか。このCTをみていくと、皆さん、心に思うところがあると思うので、自分の中で所見を考えてください。腹腔内で大量に出血があり、血液が溜まっていて、さらに造影CTの動脈相で出血が持続している像が認められます。これはかなり大変ですね。

肝臓の上のほうまで血液が溜まっている状態で、hCGが陽性の場合に考えられる疾患は何でしょうか。

研修医 異所性妊娠。

須藤 そうです、異所性妊娠です。正解です。本症例は、右卵管妊娠の破裂でした。

この方は、救急に来て11時00分に異所性妊娠と診断され、11時50分に手術室に入る時には、収縮期血圧が100oHg以下、SI(shock index)>1の状態になっていました。それぐらい急激に病態が変化 しますので、皆さん絶対にhCGだけは取ろうと思ってください。前の病院で検査したと患者が言ったとしても、自分の目でみることが大切です。この方の場合は、輸血をしながら手術室に入り、ポンピングしながら手術を行いました。

異所性妊娠の出血と言うのは固まりません。さらさらしていますので、ダグラス窩から穿刺して血を抜くと、固まらないさらさらの血液がとれます。今はそれをしなくても診断できますので、特に行う必要はありませんが、異所性妊娠の破裂では、このくらいの量の血液があっと言う間にお腹の中に溜まってしまいます。

これが右の卵管膨大部の妊娠です。卵管を切って摘出しましたが、卵管に切開を入れると、中から絨毛が排出されました。

「産婦人科受診なら大丈夫」ではない

須藤 この症例で学ぶべきことは、前の病院で産婦人科に行って、このとき妊娠反応を確認しておらず、破裂するまで分からなかったと言うことです。産婦人科にかかっているから大丈夫だと考えてはいけません。

それから破裂後、お腹が痛くて救急で来院する場合、外科や内科で診ることが多くなります。産婦人科ではないことが多いので、必ず異所性妊娠の可能性は忘れないようにしてください。

実は、異所性妊娠の死亡症例は今でもあります。実際に、ある病院の救急外来で歩いてやってきて順番待ちをしている間に、倒れて意識を失ったという話も聞きます。それくらい緊急性の高い疾患だと言うことを肝に銘じておいてください。

女性の腹痛の場合は、かかりつけの婦人科の診断があるとか、本人が「妊娠していない」と自己申告したとしても、必ず自分でhCG定性をして確認してください。命にかかわることですので、患者には「これは皆さんに検査させていただいています」と説明して、必ずチェックします。hCGが陽性だったらすぐに産婦人科連絡していただくか、産婦人科のない施設の場合は産婦人科救急対応可能病院に搬送します。必ずこの検査を行うのを忘れないでほしいと思います。

先ほどちょっと言いましたが、異所性妊娠は、エクトピー、子宮外妊娠、外妊などと呼んでいましたが、最近は「異所性妊娠」と言われるようになっています。2009年12月に日本産科婦人科学会が正式名称を変更しましたので、カルテの記載などには異所性妊娠と書くようにしてください。

異所性妊娠の部位、頻度では、卵管が一番多いです。また今、体外受精が増え、それに比例して異所性妊娠も増えています。ですので、異所性妊娠の患者を診る機会も多くなっていると考えてください。皆さん一生に1回はあると思いますよ。

診断としては、妊娠反応が陽性、それから下腹痛などの症状があるときに異所性妊娠を疑いますが、卵管流産もしくは破裂を起こさない限り、疼痛、性器出血、腹腔内出血などの症状は呈しないことが多いので、始めからこの疾患を疑うことが大切です。

月経が来ていたから異所性妊娠ではないと思ったと言う人が非常に多いのですが、ここで気をつけてほしいのは、予定月経が来なくて性器出血があった場合、「生理が遅れていたけど、生理になりました」とご本人が申告することが多くあるということです。また、予定月経頃に出血があったら、患者は「生理がありますので、妊娠していません」と言います。また、予定月経よりも前に出血がある場合があります。「生理が少しずれて早くきていますが、生理があったから妊娠していません」と言います。でも、それをそのまま信じてはいけない。患者が「月経が来た」と自己申告すること=「妊娠していない」ではないことを必ず覚えておいてください。

問診時の注意点をスライドに示します。異所性妊娠は絨毛の発育が悪いので、hCGのエストロゲン・ブロゲステロン分泌作用が不安定になることから、消退出血が起こることがあります。これを「月経」と思い込んでいることが多いので、「月経」と言われてもそれをそのまま信じないようにしてください。

本人申告の最終月経は妊娠週数の決定の目安として、hCGの値などで経過を追って確認することも大切です。だから、最終月経は出来れば2回前ぐらいまで聞くほうがいいですね。なかなか聞きにくいとは思いますが、性交渉した日などが分かると計算しやすいので、こんなことも有用な情報になります。

2013年11月8日 提供:まとめ:星良孝氏(m3.com編集部)