忘れがち「女を診たら妊娠」
  

忘れがち「女を診たら妊娠」 【研修最前線】
東京医科歯科大学、2013年研修医セミナー
第12週「産科・婦人科の救急」

「産科・婦人科の救急」
Vol.1◆切迫早産と前期破水に注意 Vol.2◆一生に1回は「異所性妊娠」 Vol.3◆忘れがち「女を診たら妊娠」 Vol.4◆性交渉「さらっと聞くべし」(11月13日公開予定) Vol.5◆中学生、おばちゃんも油断禁物(11月15日公開予定) Vol.6◆奥さん一人で初めて(11月18日公開予定)

産婦人科の救急外来では妊娠の有無が重要。
患者の自己申告に左右されずに診断することが大切。
周産・女性診療科の須藤乃里子氏が解説する。
まとめ:星良孝(m3.com編集部)

未受診妊婦の陣痛発来

講師は、周産・女性診療科の須藤乃里子氏

須藤 救急に女性患者が来た場合、常に注意したいのは妊娠の有無です。それを頭に入れておいてください。

では、症例2を見てみましょう。34歳、主訴は下腹部痛です。最終月経は5月で、6月から避妊目的に経口避妊薬を飲んでいます。そして、9月10日におりものが増えた。9月11日になって周期的な下腹部痛を認めて救急科に搬送されてきました。

スライドにある通り、腹部は著明に膨隆して、来院後も締め付けるような下腹部の痛みがどんどん増強してきました。

では、何を検査しましょうか。Vol.2の症例を踏まえて、こちらで検査された順番にスライドをお出ししますが、検査所見はここに示した通りです。少し炎症反応が上昇しています。

ここで、まずは、hCGチェックです。結果は陽性でした。

次に、超音波です。救急の先生が診てくださいましたが、「子宮と思われる構造物の中に拍動する構造物を認めます」ということでした。子宮の中に拍動する構造物、つまり、胎児、赤ちゃんですね。腹部が著明に膨隆していたのは、妊娠していたためでした。妊娠していても、意外に分からない人もいます。本人も分からないし、医師が見ても分からないということがあります。

実は、この患者は未受診妊婦の陣痛発来でした。産科医師が呼ばれたときには、既に子宮口が5cm、その1時間半後に2834gの女児を生んでいます。帯下の増量というのは破水だったわけですね。ということで、子宮内感染からの自然陣発の症例で、産後は抗菌薬投与で炎症が軽快して、無事退院しています。胎動を感じなかったのかなと疑問に思った人もいるでしょうが、本人は「腸がぼこぼこしていると思った」と言っています。

未受診妊婦の救急搬送の注意点

まとめとしては、産科のない施設に突然急性腹症として未受診妊婦が搬送されてくることがある、ということです。つい1週間前にもそのような患者が開業の内科医院に来た話を聞きました。皆さん油断しないでください。本人が「妊娠の可能性がない」と言ってもそのまま信じてはいけません。

それから超音波は非常に有用な検査ですが、行われていないことも多いようです。しかし、超音波は非侵襲的な検査ですし、ぜひ、面倒がらずに検査してみてください。

未受診妊婦の妊娠高血圧

次に症例3を見てみましょう。

この患者は足の浮腫ということで受診されています。もともと整形外科にかかっていたという方ですが、「腎臓が悪いのではないか」ということで内科を受診されています。食事療法が開始されて、6月13日にむくみが全然良くならなくて、もう1回内科を受診。そのときに「腹部膨隆が認められます」ということで、産婦人科に紹介されました。

160cm、75kgですが、3カ月前は60kgだったので、15キロも増えています。これはおかしいですよね。血圧は174/88mmHgで、浮腫があって、尿タンパクがテステープで3+です。血液検査所見はスライドの通りです。

では、何を検査しますか。3回目ですから、皆さんたぶん声を合わせて言えると思います。

そうですね。hCGです。hCGの定性が陽性でした。

さて、前回同様、腹部の膨隆があり、超音波を当ててみると、先ほどお見せした画像と同じで、子宮と思われる構造物の中に胎児が認められました。

診断は、未受診妊婦の妊娠高血圧症候群です。

2カ月前に、この方はパートナーと離別していて妊娠に全然気付いていませんでした。産科に紹介のあった時点で、推定体重は34週相当の2224gでした。この次の日に自然に陣発しましたが、血圧が非常に高く、このまま上昇して頭痛などの子癇前症の症状を訴えたため、緊急帝王切開術になりました。非常に危ない状況だったわけですね。この疾患は患者が亡くなることもあるので、気をつけてください。

未自覚の妊婦と高血圧には注意が必要

まとめです。未自覚の妊婦が重症妊娠高血圧の症状を主訴に内科を受診することがありますが、本人はただ単に血圧が高いと思っています。この症例は30代ですが、40代半ばで受診して閉経・更年期障害だと思っている方もいます。この患者も産科を受診しなければ、子癇もしくはHELLP症候群になり、脳出血から母体死亡になっていた可能性もあります。ですので、しつこいようですが、女性を診たら妊娠を疑うことを忘れないでください。

産科救急の特徴は、救命対象が母体と胎児、両方であるということです。適切な医療介入を時期を逸せずに行わないと、母体も死亡するし、胎児も死亡しまい非常に悲惨です。

また、疾患の進行が急速に進むという特徴を持っていますので、産科疾患であることを速やかに診断して産科医師につなぐことが重要です。そのためには、何はともあれ、hCGをチェックすること、これだけは絶対に覚えておいてください。

2013年11月11日 提供:研修最前線 まとめ:星良孝氏(m3.com編集部)