感染症:消化器内科からCAEBV多い
慢性活動性EBウイルス感染症


  

消化器内科からCAEBV多い

東京医科歯科大学、研修医セミナー第7週「慢性活動性EBウイルス感染症」

CAEBVは伝染性単核球症などと区別しにくい。
CAEBVの診断方法はどのように考えるとよいか。
血液内科の新井文子氏が解説。


まとめ:星良孝(m3.com編集部)

日本での報告例は年間20人前後だが


講師は血液内科講師の新井文子氏

新井 慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV: Chronic Active Epstein-Barr Virus infection)というのは実際どういう病気なのか、臨床医の立場から見てみます。

 これは発症頻度です。

発症頻度

発症頻度

 私も参加している厚生労働省の研究班と、「EBウイルス感染症研究会」で行ったアンケートの結果です。日本でのアンケートです。年間の報告例数は20人前後です。だんだん増えているように見えます。特に30歳以上の成人が増えています。たとえば2009年を見て下さい。半分以上が成人例なのです。中には80代という人もいます。ちっとも「childhood」ではないのですよね。

 私は成人例は疾患の周知とともに増えてきた、というほうが正しいと思います。内科を専攻する方々は、覚えておいていただけるといいかな、と思います。

 みなさんが臨床の場で、強い炎症症状が持続する患者を診たときには、CAEBVを考えてみてください。発熱、リンパ節腫脹、肝障害、これが3主徴だと思います。

 今日は分かりやすいように「CAEBV」で通しますけど、論文などを書くときには、病名はCAEBVではなく「EBV-T/NK-LPD」の方がいいです。

 

こんな時にはCAEBVを考える

こんな時にはCAEBVを考える

 

当科で経験した20症例の紹介元

当科で経験した20症例の紹介元


 当科で診療した15例では、発熱、リンパ節腫脹、肝障害、肝脾腫が全てで認められました。極端にいえば、不明熱を見たら、1回はCAEBVを疑ってください。

 特殊な症状としてさっきお話した蚊刺過敏症があります。あとは種痘様水疱症ですね。日に当たるところが腫れる、というところはかなり特徴的ですので、こういう人を見たら、間違いなくCAEBVだと思ってくれたらいいと思います。

まず消化器内科を受診する患者が多い

 こういう患者は、最初は血液内科には来ません。患者の多くが最初に受診するのはどこかというと、消化器内科です。次に皮膚科ですね。

 また神経所見も結構重要です。血管炎を起こしたら神経内科に行きますし、循環器内科に行く患者もいます。有名な合併症として心不全もあります。だから、この病気の患者はどの科に行く可能性もあると思ってください。お目にかかる可能性はゼロではないので、「蹄の音を聞いたら、いつも馬とはかぎらない。たまにはシマウマもいる」と思ってください。

CAEBV診断のための検査

CAEBV診断のための検査

 CAEBVを疑った場合、まずEBウイルスの抗体価を測ることになると思います。ここで大事なのは、抗体が陰性だったら、CAEBVの可能性はないということです。しかし抗体陽性だったら、抗体価が高かったらこの病気かといったら、そんなことはありません。ほとんどの患者はすごく高いのですけども、低くてもこの病気のこともありますので、陽性だったら次の検査に進みます。末梢血中のEBウイルスDNA量を測るということです。外注検査で調べることができます。これは実は保険適用外で、1回に1万円から2万円かかりますが、診断のためには必要な検査です。

 末梢血中EBV-DNA量は健常者ではDNA1μg当たり10の2.5乗コピーです。これ以上あったら、いよいよ次は感染細胞を同定することになります。通常EBウイルスはB細胞に感染していますが、T細胞もしくはNK細胞に感染していることを証明します。病理組織があれば病理組織で行います。T細胞にEBウイルスがいることは、In situ hybridization of Epstein–Barr virus-encoded mRNA(EBER-ISH)とCD4、8もしくは56などとの二重染色で行います。でも、生検を行っておらず、病理組織がない場合もあります。実はこの病気の診断が難しいもう1つの理由として、リンパ腫であるにもかかわらず塊をつくらないという特徴があるのです。

 CAEBVの特徴は末梢血に感染細胞が出てくるということです。生検組織がない場合は末梢血のリンパ球で感染細胞を解析します。これは一般には行われていない、研究室で行う特殊な検査です末梢末梢血を30-40 mL送っていただければ解析したいと思いますので、ご連絡いただければと思います。

伝染性単核球症との鑑別が大事

 紛らわしい病気として、伝染性単核球症(Infectious mononucleosis IM)があります。これはほとんどの方が治療をせずとも治ります。CAEBVと診断されてしまったら、化学療法と造血幹細胞移植をされてしまいます。反対にCAEBVをIMと診断してしまったら大変です。では、どうやって区別するかというと、やはり、笑わないでくださいね、エピソードがあるかどうかということはたいへん大事だと思います。ようするに「恋人ができた」とか、そういうことですね。必ず聞いてください。お父さんお母さんがついているときには、「ちょっと診察しますから」、といって外に出てもらい、患者1人にして聞いて下さい。これは大事なことです。伝染性単核球症は必ず除外しないといけないです。もう1つは抗体ですねIMは抗VCA-IgM抗体が上がってきますので、判別ができます。

 ところがIMの患者のなかにも、1年ぐら症状が続く方がいます。また、厄介なことに、IMの場合、特に急性期にEBウイルスがT細胞に感染しかつクローナルに増えていることすらあります。IMとの区別は検査のみでは難しいこともあります。ですので、繰り返します。単純ですけど、エピソードは必ず聞いてください。そして迷ったら、注意深く経過観察をする。これが重要だと思います。

膠原病やEBウイルス再活性化状態とも鑑別が重要

CAEBVと鑑別すべき疾患

CAEBVと鑑別すべき疾患

新井 あと鑑別が難しいのは膠原病ですね。症状が似ていることと、慢性炎症があることで間違える可能性があります。膠原病は高ガンマグロブリン血症状がありますから、抗VCA-IgG抗体がすごく高値になることがあります。5000倍とか1万倍とかになってしまうこともあります。また抗EBNA抗体も低下、陰性化することがありますので、これだけだと診断を間違えます。膠原病も、CAEBVとの区別方法は、末梢血中のEBウイルスのDNA量だと思います。膠原病では上がってきません。ただ、ウイルスの再活性化(溶解感染をともなう感染細胞の増加)状態では末梢血中のEBウイルスのDNA量が上昇します。ステロイドや免疫抑制剤、最近では生物学的製剤の使用により起こることがあります。このようなときは、末梢血中のリンパ球中にEBウイルスのDNAが認められるか、が重要です。再活性化では普通はEBウイルスDNAは血漿に存在します。

 もしリンパ球中にEBウイルスDNAが認められたとしたらT、もしくはNK細胞か、つまり感染細胞の解析をして、CAEBVと区別します。B細胞にいたらB細胞リンパ腫で、T細胞にいたらCAEBVです。

 

CAEBVと鑑別すべき疾患

 以上のように診断していただければ、私はうれしく思います。

2013年8月9日 提供:まとめ:星良孝(m3.com編集部)