寒さと排尿=當瀬規嗣
 

 じわっと、寒さがしみるこのごろです。寒くなると、トイレが近くなります。そこで、トイレでおしっこを出し終わると、もう一度、寒さが身にこたえ、「ブルッ」ときます。寒いからトイレに行くのに、トイレで寒さを実感するなんて、何という因果でしょうか……。

 まず、なぜ寒くなるとトイレが近くなるのでしょうか。尿は血液中の老廃物を体外に出すためのものです。腎臓が血液から老廃物を取りだして、血液中の水分と一緒にして尿として排出します。このとき、一緒に出す水分を加減すると、体内の水分量を調節することができます。そこで、尿中の水分量を加減するためのホルモンが分泌されています。そのホルモンをバソプレッシンといいます。バソプレッシンは脳の下に位置する下垂体から分泌されています。バソプレッシンの分泌量は、下垂体の近くにある血液の水分量を監視する中枢によって決められます。血液中の水分量が少なくなると、この中枢の指令で、バソプレッシンの分泌が増えて、腎臓で尿から水分を回収して、血液の水分量を回復させるのです。結果として、尿の量は少なくなります。

 バソプレッシンの分泌量は、体の周りの環境の変化によっても調節されます。その代表的な要素が、体温の上昇です。通常、体温が上昇すると、発汗がすすんで皮膚を冷やし、体温を元に戻す反応が起こります。このために水分が必要なので、バソプレッシンを分泌することで尿に出す水分量を節約すると思われます。逆に体温が低下すると、バソプレッシンの分泌量が減って尿の水分量が増え、しきりとトイレへ行くことになるのです。

 では、排尿するとなぜ、「ブルッ」とふるえが来るのかというと、排尿によって体の熱が失われるからです。尿は体の中で作られているので、体温と同じ温度になっています。ですから、通常でも温かい尿が体から出て熱が失われますが、その量はたいしたことはありません。しかし、寒さで体が冷えてしまっているところに、バソプレッシンの分泌低下で大量に尿が作られ、それが一気に体外に出てしまうので、相当量の熱が体から失われることになるのです。なので、体の熱の産生を増やすための反応である「ふるえ」が起こるのです。(とうせ・のりつぐ=札幌医科大教授)


2013年1月21日 提供:毎日新聞社