買物百科

手磨きとの差  はっきり示す

松下電工の電動歯ブラシ「ドルツ」が好調に売り上げを伸ばしている。今年5月の発売後、1カ月で約13万台を販売。昨年3月に発売した先行機種「スピードスイング」と合わせ、5月末までに35万台が売れた。それまでは他社の強力な競合製品に押されて低調が続いていたが、今では最大手のブラウンに匹敵するほどの売れ行きという。

自分の手で磨くと十分に歯垢を除去できなかったり、力を入れすぎて歯茎を傷つけたりするうえ、時間がかかりがち。短時間で手軽に歯垢を除去するための道具が電動歯ブラシだ。

電動歯ブラシが普及し始めたのは10年ほど前だが、歯垢除去能力を高めると歯肉や歯茎を傷つけやすいという問題点があった。そこで振動の速度を高めると同時に、ブラシの振動の幅を従来品の約3分の1の1ミリに縮小。高速で小刻みに動かすことで「歯茎にやさしく、短時間でしっかり磨く」機能を実現した。

決め手は振動の高速化。ここで、電動シェーバーで培った松下電工独自のリニアモーター技術を生かした。回転運動を往復運動に変換する従来の回転モーターと異なり、磁石の吸引・反発力を利用するリニアモーターは無駄な動きが少なく、1分間に約3万1千回と従来品に比べ4倍の速度で振動させられる。

しかし、大きな問題があった。電動歯ブラシはシェーバーに比べて柄の部分が細く、モーターのスペースが限られるという点だ。モーターをどう小型で軽くするか。小型化すると磁力が弱くなるので、材質やコイルの巻き方などで試行錯誤を繰り返した。その結果、モーターのパワーを維持しながら本体重量を150グラムに抑えることに成功した。

電動歯ブラシを購入しても、手磨きとの違いがはっきりしないと、電動歯ブラシの使用を面倒に思って使用を中止してしまう人がでてくる。このため「開発にあたっては手磨きとの違いがはっきり分かるものを心がけた」(松下電工の入江隆行氏)という。

ドルツ購入者の約6割はすでに電動歯ブラシを持っている人の買い替えで、従来品に何らかの不満があるか、使用をやめた人が多く購入しているとみられる。先行機種「スピードスイング」購入者へのアンケートによると、購入1年後の中止率は約3%と従来品の5分の1に減少した。

1万円前後の高価格品の中でドルツは7割超のシェアを握ると松下電工はみている。強力なライバル製品があったとしても、はっきりとした機能の違いを打ち出せれば、逆転は可能だということが改めて示された。

ひと口メモ
松下電工は約2分間で十分な歯垢除去ができるとしている。力を入れすぎるとモーターの出力が自動的に弱くなり、歯茎への負担を軽くする機能もある。希望小売価格は歯茎のマッサージ機能がついた機種で17,400円。歯磨き機能だけのものはオープン価格。
(2002.7.20 日本経済新聞)