揺らぐ"安全宣言" 基準超え次々 福島のコメ、苦悩深く 
「特集」食品と放射性物質

 

揺らぐ"安全宣言" 基準超え次々 福島のコメ、苦悩深く 
「特集」食品と放射性物質


 福島市や福島県伊達市、二本松市のコメから相次いで暫定基準値(1キログラム当たり500ベクレル)を超える放射性セシウムが検出され、福島県産米の"安全宣言"が揺らいでいる。農林水産省や県が主導した調査態勢の不備が露呈した形で、風評被害が拡大するのは必至。稲作農家やコメ卸業者ら関係者の苦悩は日を追うごとに深まっている。

 「驚いたのが半分、やっぱりというのも半分」。11月、1キログラム当たり630ベクレルが検出された福島市大波地区の農家の男性は、自身の田んぼでそう話した。

 今年収穫したコメを農協に持ち込んで自主検査し、基準値超えが分かった。「家族が食べるので安心したいという思いだった」という。

 出荷停止となった同地区や伊達市の旧小国村などは山あいに位置し、局所的に放射線量の高いホットスポットがある。「もともと線量の高い地域。基準値超えに驚きはない」。住民からはそんな声が漏れる。

 県は福島市や伊達市など29市町村で緊急に放射性物質の調査を進め、汚染実態の把握に努めるとともに、基準値を超えた水田から土壌を採取するなど汚染のメカニズムを調べている。

 県は9〜10月、収穫約1週間前の玄米を調べる予備調査と、収穫後の本調査という二段構えで放射性物質を調べた。いずれも抽出調査で基準値超えはなく、10月12日に佐藤雄平(さとう・ゆうへい)知事が安全宣言を出した。

 県全域での出荷が始まった後で判明した基準値超えに「やるべきことはやった。全量調査は無理」と県幹部は強調するが、結果としてしわ寄せは農家に。福島市大波地区の農業伊藤芳信(いとう・よしのぶ)さん(62)は「来年はもう作付けできないのではないか」とため息をついた。

 「安全宣言後に基準を超えたから、よけいに消費者は不安がる」。福島県産米を中心に扱う県内のコメ卸業の男性(62)は指摘した。福島第1原発から約80キロ離れた会津地方のコメを東京の業者に卸す予定だったが「少し待ってほしい」と言われたという。

 男性が今年これまでに仕入れた福島県産の新米約1500トンは、例年の半分の量。「売れ残りが怖くて買い付けできない。先の見通しも立たない」と頭を抱えている。


出荷制限続く山の幸 除染めど立たず 「特集」食品と放射性物質


 原発事故で放射性物質が降り積もった山間部は除染のめどが立たず、地表近くの養分を吸収するキノコ類への影響は深刻だ。

 厚生労働省によると、暫定基準値の1キログラム当たり500ベクレルを一度でも超えたキノコ類は12月7日現在約130サンプル。福島、茨城、栃木、千葉4県の一部自治体ではシイタケやナメコの出荷制限が続く。

 とりわけ乾物は、乾燥時に放射性物質が濃縮され、被害は福島から離れた地域にも広がる。

 静岡市で茶と乾物の販売店を営む男性は10月、静岡県東部の干しシイタケから暫定基準値を超える放射性セシウムが出たと聞き、言葉を失った。「お歳暮の売れ行きは厳しい」と嘆きは深い。

 "フルーツ王国"の地位も揺らいだ。福島市の観光農園で桃や梨を作る紺野淳(こんの・あつし)さん(59)は「果物狩りの客足は例年の7割減だった」と話す。リンゴから検出された放射性物質は基準値の10分の1程度だが、売れ残ったリンゴをジュース用に引き取る業者もいない。

 枝や幹に残った放射性物質は樹皮から吸収される。福島県果樹研究所は樹皮のはぎ取りや高圧洗浄で来年以降の影響を減らしたい考えだが、果樹園はどこも敷地が広大で、冬の間に作業が順調に進むかどうかは不透明。

 茶葉は摘むごとに放射性物質が減ってきている。干しシイタケと同様に乾燥状態では高濃度のセシウムが検出されてしまうため、暫定基準値の見直しでは水に戻した状態で検査する方式に切り替えられる方向だ。


時間遅れで回遊魚にも 食物連鎖が濃縮作用 「特集」食品と放射性物質

 魚介類からは依然高濃度の放射性セシウムが検出されている。専門家は、食物連鎖でマグロなどの回遊魚に濃縮されて蓄積する恐れがあると指摘している。

 水産庁は12月8日までに水産物4595サンプルを検査。うち約160サンプルで暫定基準値を超える放射性物質が検出された。

 福島県漁連は4月、県の沖合で操業を自粛。6月以降も同県沖ではアイナメ、イシガレイ、ホッキ貝などは基準値を超えた。海底に生息するこうした魚介類は広範囲を回遊しないため、汚染された海水や餌の影響を受けたとみられる。

 基準値を超えてはいないが、福島県沖のクロマグロからは1キログラム当たり41ベクレル、房総沖のカツオからは33ベクレル、北海道・青森県沖太平洋のサンマからは12ベクレル、ほかにアジやサバからも微量が検出されている。

 「1匹でも高いセシウムが出てしまうと、全部が影響を受けてしまう恐れがある」と、サンマ漁業の全国組合は10月、福島第1原発から半径100キロを禁漁とした。

 東京海洋大の水口憲哉(みずぐち・けんや)名誉教授(資源維持論)は「マグロの餌となる小魚がまだまだ汚染されている。回遊魚への濃縮汚染が時間遅れでやってくる可能性がある」と話している。

2011年12月12日 提供:共同通信社