自分を知って楽になる、

アンチエイジング(2)自分を知って楽になる

鶴見大学歯学部付属病院(横浜市鶴見区)。ここのアンチエイジング外来で、老化度の検査を受けた。結果を聞きに、再び病院長の斎藤一郎教授をたずねた。

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斎藤教授から報告書を手渡された。ページをめくると、数字や文字がたくさん並んでいる。

「どんな結果だったのでしょうか?」。そう尋ねると、斎藤教授は「筋肉と骨は年齢より10歳以上若い。取材でよく歩いて、鍛えているんでしょうね」。

「えっ、本当ですか」。つい頬がゆるみ、声が弾んだ。が、続きがあった。

「血管年齢などは10歳以上年をとっています」。口の中も、かむ力は年齢より若いが、唾液の量、飲み込む力などは老化していた。

外来主任の梁洪淵(りょうこうふち)講師が、老化防止策を指導してくれた。まず血管。「糖質や脂肪は血管の硬さにつながります。クッキーなどの甘いものの量を減らしましょう」

口。「よくかみ、飲み込むと、意識することが大事。おいしいからと、だらだら食べるのはダメです」

結果が良かった筋肉と骨にも注文がついた。「歩くだけでは運動不足。将来を考えて、ジョギングや水泳などもしてください」

思い当たることばかり。私はうなずくしかなかった。

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場所は変わって京都大学付属病院(京都市)。ここの老年内科に2006年、アンチエイジング外来が設けられた。担当の近藤祥司医師は、血管と骨の老化を診察し、寝たきり防止策につなげるアンチエイジングを目指している。

取材に訪れた日、70代の女性が診察を受けていた。女性は腰を骨折したのをきっかけに、通院するようになった。インターネットでこの外来があることを知った。「骨密度をはかってもらったりして、自分の状態がわかって気分が楽になった」と、この女性。近藤医師との対話を楽しんでいるような雰囲気もあった。

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二つの外来で感じたのは、訪れる人の心のよりどころにもなっていることだ。

斎藤教授によると、検査を受けるのは、主に60代の女性。年1回、自分の老化度を確かめにくる「リピーター」が多い。

近藤医師は、外来の愛称を「ため息外来」にしようと考えた。なんとなく調子が悪くて、ため息が出る。でもどこへ行っていいかわからない。そんな時に気軽に足を運べる場にしたい。

自分の弱点を知り、改善への手がかりをつかむ。そこからアンチエイジングが始まる。私も頑張ろう。(編集委員 知野恵子)
2011年8月19日 提供:読売新聞


アンチエイジング(3)同じ順序で変わる体形



何か変だ。体重は変わっていないのに、昔はいていたスカートがきつい。やはり加齢の影響か?

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女性用下着で有名なワコールの人間科学研究所(京都市)。そのロッカールームは様々な年代の女性でにぎわっていた。

1964年の誕生以来、この研究所では延べ4万人以上の女性の体を計測した。同じ女性をずっと測るなど時系列の変化も調べている。この日集まった女性たちも、計測が目的。着々とデータが蓄積されている。

その膨大なデータを分析して割り出したのが、加齢による「体形変化の法則」だ。研究員の萩野智子さんが、説明してくれた。

「皆同じ順序で体形が変化していきます」

例えばおなか。最初は横から見てまっすぐ、つまり出ていない。それが、<おへその周りが出る>→<下腹全体が出る>→<胃のあたりまで出る>という順序で変化する。胸やヒップも、肉がそげたり、たわんだりして形が崩れ、下がっていく。スカートがきついのは、こうした変化のせいか。

変化が始まる年齢や、変化の速度は、個人差が大きいという。遅らせるには、食生活や運動はもちろん、「体にぴったり合った下着を着けることが大事です」と萩野さん。下着会社ならではの助言だ。

私も計測してもらった。映し出された立体画像は、なんだかメリハリに欠ける。「Tシャツを着ているから」と慰められたが、自分を改めて客観的に眺めた。「こんな体形なのか」

資料には「いったん変化したら元には戻らない」と書いてある。困ったものだ。改善策はないのだろうか。

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「ほら、こうすると、年齢が違って見えるでしょ」。日本フィットネス協会理事の山岡有美さんが、コーヒーカップを持ち上げて、二つの動作を見せてくれた。

カップに顔を近づけて飲もうとすると、年老いて見える。逆にカップを顔に近づけると、そんな感じはない。わずかなことで年齢が違ってみえる。体形がどうであれ、身のこなしで随分印象は変わる。山岡さんにしぐさの基本、立つ時の心得を教えてもらった。

木が大地に根を張るように、足の裏をしっかり床につける。頭の上に風船がついているイメージで、上から引っ張られるような意識で背筋を伸ばす。

早速やってみた。すーっと伸びる感じが気持ちいい。「そうそう、すてきよ」。山岡さんがほめてくれた。この一言で、元気が出て若返ったような気がした。(編集委員 知野恵子)


2011年8月22日 提供:読売新聞