各国の原発政策、難問直面  コストと安全、

健康被害も チェルノブイリ事故25年


原子力エネルギー史上最悪の惨事、旧ソ連チェルノブイリ原発事故から26日で25年。健康被害に関する評価が定まらないまま、地球温暖化対策に向け「原子力ルネサンス」と呼ばれる原発再評価の動きが進んできた。だが福島第1原発事故の衝撃とともに今、多くの国がコストとリスク、電力確保が絡み合う難しい問題に直面している。

 ▽鉛のひつぎ

 モスクワ郊外の墓地。墓参り客でにぎわう復活祭前日の23日、立ち寄る人の少ない一角があった。チェルノブイリ事故で消火活動などに当たり、急性放射線障害で死亡した28人の埋葬場所だ。

 「フクシマでチェルノブイリを思い出した」と墓碑にあめを供える中年女性。放射線レベルが高く危険な遺体は鉛のひつぎに納められた。遺体が土に返ることはない。

 事故の放射線が死因と立証されたのはこの28人を含め、ごく少数だ。

 世界保健機関(WHO)のヤカブ欧州地域事務局長は「がんによる死亡は最大9千人と推定される」と指摘。しかし今年発表の国連放射線影響科学委員会の報告は「がん増加に関する計測可能な、説得力のある証拠は今のところ見当たらない」としている。

 国際環境保護団体グリーンピースは「27万人ががんを発症。9万3千人が死亡」と主張する。

 ▽閉鎖要求

 チェルノブイリの教訓の国際的共有が進まないまま各国は原発を維持してきた。それだけに福島の事故を受けた安全コストの増大は頭痛の種だ。

 アゼルバイジャンのラシザデ首相は19日、ウクライナ首都キエフでの国際会議で、地震国の隣国アルメニアの原発は国際原子力機関(IAEA)の基準で「最も危険な一つ」だとして稼働中の原発の閉鎖を要求した。

 1988年のアルメニア大地震では原発からスタッフが逃げ、原子炉過熱の危機も発生した。

 アルメニアは翌20日、福島の事故の原因解明など最終結論が出るまで「新原発建設を凍結する」と発表したものの、一方で既存原発の延命も図っている。

 ▽提言出せず

 「地震や津波、火事や洪水など全てに耐えねばならない」。国連の潘基文(バン・キムン)事務総長は原発安全基準の徹底再考をIAEAに求めたが、コスト増が絡み容易ではない。

 欧州メディアによると、IAEA元高官は「安全原則を強めるほど、各国は安全協定に参加しにくくなる」と指摘。米カーネギー国際平和財団の専門家は、IAEAなどが「原子力安全に関する権力者」になることを懸念する声が産業界にあると話す。

 キエフで20〜22日に開催された国際科学会議のテーマは「チェルノブイリ原発事故から25年 未来のための安全」。

 しかし将来への提言となる最終文書は採択できなかった。進行役を務めたウクライナの原発当局者は、原発の安全に関して「明確な結論など出せないのは明らかだ」と話し、問題の複雑さを強調した。(モスクワ共同)

2011.04.27 記事提供:共同通信社