食品による被ばくで安全委答申 
生涯被ばく「100ミリシーベルト」の根拠は


 内閣府の食品安全委員会は先月27日、食品の放射性物質の規制値を決める根拠として、食品による内部被ばくだけで「生涯の累積でおおよそ100ミリシーベルト」という目安を示した。なぜ生涯で100ミリシーベルトなのか、外部を除外したのか……わかりにくい点は多い。判断した背景をまとめた。【小島正美】

 ◆外部被ばく、なぜ除外

 Q 食安委は7月の評価案で「外部被ばくと内部被ばくを合わせて100ミリシーベルト」と言っていたのに、なぜ「内部被ばくだけで100ミリシーベルト」と修正したのでしょうか。

 ◇原発安定が理由、福島は別途判断

 A 福島第1原発の事故は落ち着きつつあります。「著しく外部被ばくが増大しないことを前提に」外部を除外したのです。

 Q 外部被ばくしている福島県の人たちは大丈夫ですか。同じ基準でいいのですか。

 A 確かに、放射線量の高い地域とそうでない地域が一律なのはおかしい。食安委は今回の目安について「外部被ばくが非常に高い場合は適用できない。国のしかるべき機関で対応すべきだ」としています。

 Q なぜ100ミリシーベルトを基準にしたのですか。

 A 広島・長崎の被爆データ(30歳で被爆、70歳まで経過観察)から、おおよそ100ミリシーベルト以上の被ばくでがんの増加が見られたとの報告が主な根拠です。

 Q 原爆は瞬間的な外部被ばくが中心なのに、食安委はなぜ「生涯の累積」としたのでしょう。

 A 被爆者は原爆投下後も、放射能で汚染された空気や水、食べ物を長く取り込んでいました。70歳まで経過観察が行われたことから、「生涯にわたる被ばく線量の影響とみなすことも可能と判断した」と言っています。ただ短期間での影響を生涯で100ミリシーベルト以上とする考え方はこれまでにない見解で科学的なデータの裏づけに乏しく、学者の間で議論になりそうです。

 ◆内部被ばくの健康被害

 Q 外部被ばくが中心の原爆データを、食品による内部被ばくに援用できるのですか。

 ◇学説もいろいろ、よく見守る必要

 A 食安委は「外部被ばくの影響を食品からの内部被ばくに読み替えることは可能」と言っています。線量が同じなら、外部被ばくも内部被ばくも影響は同じだという国際的な考え方が背景にあるようです。

 ただ、放射性物質を含むちりや食品を取り込む内部被ばくは、外部被ばくより影響が持続的で深刻だと見る学者もおり、注意深く見守る必要があります。

 Q 内部被ばくがどう人体に影響するかを示すデータはないのですか。

 A 食安委は約3000件の文献を調べましたが、「内部被ばくに関するデータは極めて少なく、食品評価に十分ではなかった」と言っています。

 国民から寄せられたパブリックコメントには「100ミリシーベルト以下の低線量でも健康影響があるとする研究報告を無視しているのでは」という意見が多くありました。ペトカウ効果といって、低線量の被ばくほど影響が大きいという報告もある一方、低線量だと逆に免疫力が上がるという研究もあります。

 これら低線量影響の研究に対し、食安委は「信頼のおけるデータと判断することが困難」と言っていますが今後、もっと具体的に詳しくコメントすべきでしょう。

 ◆100ミリシーベルト未満なら安全か

 Q 100ミリシーベルト未満は健康への影響がないと考えていいのですか。

 ◇リスク不明だが安全重視の判断

 A そこはとても難しいのです。100ミリシーベルト未満の影響については確かに、よくわかっていません。

 食安委は「安全とも危険ともいえず、健康影響について言及することは困難」と言いつつ、同時に「喫煙や食生活など他の要因と区別できないくらいに小さい」とも説明しています。リスクは小さいとしながら、その小ささを数値で表せないと言っているのです。

 ちなみにがんを発症して労災認定された原発作業員10人のうち9人は累積被ばく線量が100ミリシーベルト以下で、最も少ない人は5ミリシーベルトでした。食安委は「労災認定は労働者を補償するためにあり、科学的因果関係は証明されていない」として、考慮していません。

 Q 広島・長崎のように短時間に被爆した場合と、数十年かかって、少しずつ被ばくした場合では、影響は違うのでしょうか。

 A 人の細胞内の遺伝子は放射線で傷ついても、それを元にもどす修復機能をもっています。少しずつ被ばくすれば、修復に時間的な余裕があるため、影響は少なくなります。食安委は「低線量を慢性的に浴びた場合は、健康影響が小さいことは承知しているが、今回は、この効果を考慮せずに評価した」と言っています。会見では「生涯で100ミリシーベルト以上でもよかったけれど、より安全側に配慮した」との発言がありました。

 ◆子供への影響評価は

 Q 子供への影響はどう評価されたのでしょうか。

 ◇大人より厳しい規制必要と指摘

 A チェルノブイリ事故で、最も高い汚染地区にいた5歳以下の子供たち(10〜99ミリシーベルトの被ばく)で白血病の増加があり、放射性ヨウ素の被ばくでより多く甲状腺がんになったという文献がありました。このため食安委は「小児は成人より感受性が高い可能性がある」と、大人よりも厳しい規制が必要との考えを示しました。

 Q 今後、規制値はどうなりますか。

 A 厳しくなる見込みです。放射性セシウムの被ばく限度の目安は年間5ミリシーベルトです。現在の暫定規制値はその5ミリシーベルトを五つの食品群に1ミリシーベルトずつ割り当てて、肉・魚で1キロあたり500ベクレルなどと設定されています。

 食安委の示した生涯100ミリシーベルトは、人生を80年とすると年間1・25ミリシーベルトになります。来春に向け厚生労働省が基準値を設定しますが、小宮山洋子厚労相は年間1ミリシーベルトを目安にしたいと話しています。

2011年11月16日 提供:毎日新聞社